#5

ジリジリと焼けるような蝉の声。

溶かされるようにただ教室へ向かう。



「おはよー、千晶。」


「おはよう夏美。相変わらず早いわね」


「うん、実はさー。部活の用事が毎日の様にあるんだよね」


「そうなのね。大変じゃない」


「でも楽しいからいいんだ!好きでやってる事だしね」


「夏美は偉いわね」


「そうかな?あ…ありがとう!」


「私は部活で………っ!!!部活、コンテスト…」


「へ?コンテスト?」


「忘れていたわ、すっかり…あの事があったせいで」


「へ?あの事って?」


「なんでもないわ、なんでも…コンテストどうしようかしら…出なくても良いのかしら」


「写真のコンテスト?」


「そう」


「出なよ!出た方がいいって!」


「え…」


「あ、ごめん。大きな声出しちゃったね」


「いや、気にしてないわ」


「えへ…あのさ、私陸上やってたけど。

大会の前に怪我しちゃって出れなくなったからさ」


「えっ…そうだったの?」


「うん。そうなのよ。しかもそれは最後の大会。………だからどうしても、大会とかコンテストとか…聞くと」


「ごめんなさい。知らなくて…」


「ええ!なんで謝るの。…千晶には、頑張って欲しいなーってね」


「…でも私は、結果を残すことに意味を見出せなくて…」


「そうかな」


真剣な顔の夏美にじっと見つめられる。


「私は、結果どうこうより戦う事が大切だと思うけど」


「戦う…?」


「だってさ、その時の相手はその時だけだよ?」


「…確かにそうね」


「でしょ?そしたら、戦うのやめちゃったら損じゃない?どんなにやる気、なくてもさ。」


「違う…やる気は、」


「?」


「あ…あったのよ。

でも…意味がないから、戦う意味が無いと思ったから。

私が戦いを挑んだところで、由比がいるから_いつからか、戦いの価値なんて無くなってしまった。」


「千晶…」


「でもそうよね、戦う事が大切…

ありがとう夏美。吹っ切れたかもしれないわ…私。」


「!……良かったよ、千晶。頑張って!」


「ええ。」



窓の外から、爽やかな風が吹き込んだ気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る