第13話 松の友達作り、そして別れ
「ちゃんと話せた?」
プロジェクトももう終盤。もの寂しかった山肌は、今は松の赤ちゃんたちでいっぱいになっていた。
「おかげさまで」
あのあと、父にもう一度家族3人で暮らすつもりはあるのか尋ねた。父は、まだ母に会う勇気はないが、いずれ家族3人でまた会って、もう一度3人で暮らしたい旨を伝えたいそうだ。
「いやぁ、それにしても、賑やかになった!」
「そうですね。またまだ小さいですけど」
「何十年か経ったら♪ 何十年か経ったら♪ 松の友達100人できるかなっ♪」
「イマイチ語呂が合いませんね」
「文句言うならお前が替え歌作ってみろよ」
「いや、そもそも替え歌作るのが間違ってません? 友達っていうか、もう祖父と孫並みの年齢差ですよね?」
「そんなこというなら、ブルックとルフィの年齢差わかってる?」
「たとえが極端! っていうか先輩読んでたんだ!?」
「最近ハマった」
……最近ってまた中途半端な時期だな。
「じゃあ、閉会式始める前にグリ活のみんな集めてきてもらえる?」
「みんなって言っても、僕と先輩入れて4人ですけどね」
「つべこべ言わずに呼んでこい」
「あいあいさー」
周囲を探すと、あっさり二人は見つかった。なんだか、今日一日で二人の仲が深まっている気がする。……高島、よかったな。
「お二人さーん、先輩が集合しろだって」
「今いきまーす!」
小走りで二人が僕の方に来る。僕も元来た道をゆっくりと戻り、先輩の元へ向かう。
「よし、全員揃ったな。あ、幽霊部員は抜きで数えて、だけど」
そう。グリーン活動部は名義上は6人のメンバーがいるが、実際に活動しているのは4人だけだった。
「私は3年生だ。そして、夏休みが終われば、本格的に受験勉強が始まる」
薄々気づいてはいた。
先輩が、このプロジェクトを最後に引退するということを。
だから、先輩がこれから何を言おうと、僕らは驚かなかった。
「今日を持って、私、
明るい笑顔で、先輩は引退宣言をした。僕ら一年生は、その言葉に拍手を送る。
「そして、来月からの新しいグリーン活動部は
僕が次期部長になることも、前から決めてあったことだった。
ただ、実感がイマイチ湧かない。
「もう私がやれるだけのことは、やったし。ちょっと寂しいけど、私たちには松の絆があるから」
そうだ。僕らには松がいる。
「それじゃあ、解散にしようか」
「あ、先輩待ってください。4人で最後に写真撮りましょ!」
冴島さんがデジカメを片手に先輩を引き止めた。目立ちたがりな先輩のことだ。写真なんて大好きに違いない。仕方ないから、センターのポジションは先輩に譲りましょう。そう言おうと思い、先輩の方を振り向いた。
先輩の顔が、曇っていた。
が、次の瞬間には「写真大好き! やったー!!」といつも通りの先輩の笑顔に戻っていた。どうやら、高島と冴島さんの二人は気づいていないらしい。だけど、僕にははっきりと見えた。先輩の不安そうな顔を。
もう一度先輩の表情を確かめようと先輩の方を向くと、デジカメのレンズを見る先輩の横顔は、やはりいつもより
「先輩、笑ってください。いつもみたいに」
僕はとなりに並ぶ先輩にそっと囁く。
先輩は一瞬驚いて僕の方を見たが、すぐにレンズに向き直り、今度はいつも通りの、作り笑いじゃない優しい笑みを浮かべていた。
「じゃあ撮りますよー、はいチーズ!」
画面で確認すると、4人の笑顔がしっかりと刻まれていた。
「翼」
「はい」
閉会式も無事終わり、いよいよ解散となる直前、先輩が僕を呼び止めた。
「立ち別れ」
僕たちの間には一本松が立っている。まるで、先輩と僕を繋げるかのように。
先輩は松に手を伸ばした。僕も、自然と手が伸びた。
松を通して、僕と先輩は繋がる。
僕は先輩の言葉____和歌____の続きを声にした。
「いなばの山の 峰に生ふる」
そして、今度は二人で揃えて。
「「まつとし聞かば いま帰り来む」」
「翼! 約束だよ。何があっても、いつまでも、どこまでも、お互い待っていよう。待っていれば、また必ず会えるから」
立ち別れ
いなばの山の 峰に生ふる
まつとし聞かば いま帰り来む
それが先輩と交わした最後の会話となった。
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