第23話 寒の晩

 ある夜、夜食を買いに近くのコンビニへ行った。


 午前二時。


 いわゆる「草木も眠る丑三つ時」だ。

 夕方まで雨が降っていたため、寒さも一段と厳しい。

 霧になっているわけではないけれど、キーンと凍えた空気が、体にまとわりつくような感じだ。

 空を見れば、雨が降ったことを忘れさせるかのような晴天。

 半月はくっきりとその輪郭を現し、星も強い光で輝いている。

 見ていると余計に寒くなるような空模様だ。


 こんな時間にこんな寒い外を歩いている人もいないだろう、と思っていたら、前から人影が近づいてきた。


(人のことは言えないけれどご苦労なことだな)


 そんなことを考えていると、その人影が会釈をした。他に誰もいないから自分にされたのだろうと思って、こっちも会釈を返した。

 誰か知っている人かな、と近づくと、マフラーで顔の半分を覆って、さらに毛糸の帽子をかぶっていたので全然分からなかった。


「お寒うございますね」


とその人が突然話しかけてきた。だから、


「ええ、寒いですね」


と反射的に答えた。


 相手は鼻が高いのか口を尖らせているのか、マフラーがでっぱった形になっていた。


「やはり『かんのばん』ですからなあ」


 そう独り言を言って、相手は通り過ぎた。

 その後はあまり気にも留めず、コンビニでカップラーメンとおでんを買った。

 おでんは売れ残りの観がおもいっきり漂っていた。


 後でふと、子どもの頃に祖母から聞いた話を思い出した。


 空気が冷える夜には人間以外のモノも人と同じく厚着をして、人と同じく道を歩く。気付いたそぶりをしてはいけない。向こうも人ではないことを気付かれないようにしているのだから。


―だから寒の晩には外にでてはいけない―


 相手の格好を思い出して、


(まさかキツネとかじゃないよな……)


 と一人で笑いつつも、最近、寒い夜は家から出ないようにしている自分に気付いた。

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