第22話 初菓子

「そうか……そんなことがねぇ。」


 居間はまさに惨状であった。翠は頭を抱えており、蒼太は腹を抱えて腹痛に耐えている。ヒノカミのみが、かき氷に練乳をかけて舌鼓を打っている。


「ふぅ……おハナ、お前は実にバカだなぁ。」


 河神の前に座って静かに言い放ったのは、齢十ばかりの少女であった、前髪が長くその瞳が隠れるほど。頭の横に狐の面を斜めにかけている。


「なんだと! これが粋というものだと、知らんのか!」

「知らないね。大方猫の隠居にでも担がれたんだろう。」


 図星をつかれてヒノカミはたじろぐ。


「そ、そうではなくてだなあ……」

「紫翠、玄関に獺がくれた鮎があるよ。鼠たちは飾り付けをしなさい。翠、縁側にカラスの僧正様からいただいた餅がある。やいたほうがいいだろう。蒼太、お前は……」


 本人はまだ青い顔をしている。


「もう少し休んでいなさい。さて……」


 言いかけたとき、遠くから鐘の鳴る音が聞こえた。低く、そして澄み切った音が、夜の空気を撫でて、優しい冷たさにしていた。


「さて、皆、あけましておめでとう。今年もしっかりね。」


 そう言って、土地神は、小さくつつましやかに、しかしとても優しく笑った。

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