第13話 朧
昔、中国にある若者がいた。
ある夜、床に就こうとすると、外から得体の知れぬ音がする。
高い音で人の泣き声のようでもあるし、動物の悲鳴のようでもある。とにかく悲しい声であった。
何事かと思って窓を開けると、そこにいたのは一匹の巨大な龍であった。銀色の月光に黒い鱗がきらびやかに輝いている。
龍は恐ろしげな顔ながらも、涙を流し、悲しみにむせんでいることが分かった。
「どうしたのだ?」
と若者が問うと、
「あの方に近づけないのだ、いつまで飛んでも、どこまで飛んでも……」
そう言って、あの声で泣いた。月に向かって、悲しみに身が削げるのではないかと思えるほどに。
「あの方とは誰なのだ?」
という若者の問いにも、ただ泣き続けるだけであった。
哀れに思いながらも、何もできることがないので、若者は眠ることにした。寝床に入ってからは、龍の声を気にする間もなく、すぐに眠りについてしまった。
数日後、またあの泣き声が聞こえた。
今度は遠くで聞こえたような気がしただけだが、気になって窓を開けた。
そこには龍はいなかった。
ただ月を見ると、小さな糸くずのような影が、月の右下のあたりに漂っているのが見えた。
その影からは薄雲が吐き出され、月はその薄雲に隠れてぼんやりと照っていた。
(なるほど、だから月に龍と書いて「朧」と読むのだろう)
若者はそう理解して、その日は早々に寝ることにした。
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