第9話 hitch hikerー ヒッチ・ハイカー ー

思い浮かべてください。

 

 

 あなたは、一本の道の傍らに、彼(彼女)と一緒に車を待っています。

 その道はアメリカ映画に出てきそうなとても長い道で、まわりは枯れ草の生えるだけの荒野です。

 道の先の町へ行かなければならないのですが、なかなか乗せてくれる車は現れません。



「車、来ないね」

「来ないな」

「今日中に着けるかな」

「さあな」

「暑いね」

「水は無いぞ」

「……」

「……」


 と、そこへ、砂煙を舞い上がらせて、一台のトラックがやってくるのが見えました。


「お、チャンス! 今度こそは捕まえてみせる!」

「ああ、そろそろ限界だからな」

「ストップ! ストップ! ねえ、連れてって~!」

「何だ、その寝違えたような格好は?」

「失礼ね! 色仕掛けに決まってるじゃない! 見てわからないの?」

「聞いたら余計に分からなくなった」


 しかしトラックは止まることなくそのまま通り過ぎていきました。


「なっ、ちょっと見た? 運転手のおっちゃん、こっち見たのにアクセル踏みやがった」

「賢明な判断だな。俺もそうする」

「あんたねぇ……」

「水は無いぞ」

「……」

「……」


 太陽はいよいよ熱く照り輝いています。


「車、来ないね」

「来ないな」

「何かしよっか?」

「トランプはブラックジャックしか知らん」

「トランプ無いよ」

「じゃんけんならやらんぞ」

「やって楽しい?」

「さあな」


 太陽が傾いて、遠くの山に沈むころになっても、車は現れません。


「何かさ」

「何だ」

「毎日忙しかったから、フリーな時間を与えられても、何をすればいいか分からないんだよねー」

「確かにな。俺だったら寝る」

「楽しい?」

「そういう次元を超えた行為だ」

「……車、来ないね」

「来ないな」

「暑さは和らいだけど……」

「水は無いぞ」

「……」

「……」



 思い浮かべてください。あなたは一本の道の傍らで、車を待っています。

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