第8話 gardenー ガーデン ー

 昔、私の家によく来てくれた庭師のおじいさんは、魔術師だったのかもしれない。

 

 私が一人テラスの椅子に座っていると、

「ほいほいほい」

 

 と小気味よくやってきて、目の前にある庭木を切り出した。


  緑の木々が歌ってる

  飛び立ちたいと歌ってる


 そういうふうに歌いながら木を整えているときは、木は緑のフラミンゴになる。


  わしがつばさを与えよう

  千の泉を飛び越えて

  千の光を浴びといで


 すると緑のフラミンゴは翼を羽ばたかせ、空へ舞い上がる。太陽の方向へ向かって飛んでいき、そのまま姿は見えなくなった。


  緑の木々が歌ってる

  いずれは花咲く身だけれど

  花になりたいと歌ってる


 こんな歌を歌ったときは、庭木はバラの花になる。


  わしが花びらをあたえよう

  千の香りをつむぎ出し

  千の都へ届けておくれ


 木を花の形に整えただけなのだが、鋭くも優しいバラの甘い香りが庭中に漂った。

 

 そして最後に、おじいさんは必ず歌う。


  それでも庭が好きならば

  それでも家が好きならば

  月夜の庭に花びら散らし

  藍色の夜に降りといで


 そう歌うと、次の日の朝には、フラミンゴもバラの花もなく、その代わり丁寧に整えられた木々が、庭に植えられているのだった。

 

 私は少しもったいない気がして、ある夜、おじいさんが造った庭を、歌いながら渡り歩いた。


  世界を飛んだフラミンゴ

  世界へ香るバラの花

  彼方の街に魅せられて

  彼方の泉に魅せられて

  太陽と月に焦がれたら

  千の世界へ根を下ろせ

  真昼の時間を刻みこみ

  月夜に夢を歌いだせ



 次の日の朝、庭木が一本なくなっていた。

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