第3話 蟋蟀
夜、一人居間に座っていました。
すると、小さな、まだ体の色も黒くなりきっていないこおろぎが、私の傍らにやってきました。
まだ、外を知らないようなこおろぎ。そういう気がして、私は、そのこおろぎを、とても愛おしく感じました。
しかし次の瞬間、こおろぎの体は真っ二つに切られました。
いつぞやの青年が、刀を手にして、いつのまにか隣に立っていました。
今度は、彼は何も言いません。
私も何も言いません。
ただ、これは夢であってほしい、と、こおろぎの亡骸を見つめながら、涙を落としました。
未だに、夢かどうか分かりません。
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