第3話
「シー」私は口元に人差し指を持ってくる。
「坊や、お名前は?」
「スズキタイチです。5歳です」
「そうか、じゃあタイチ君。君に話したいことが——」
「あなたはっ!」手を握りしめながらタイチ君は興奮気味に話し出す。
「とっきゅうせんたいトレインジャーの、あかぎれっどですか?」
そう。私は今変身した。タイチ君が持っているフィギュアに。
「そうだよ。アカギレッドだ」名前が分からず、自己紹介もできずどうしようかと思ったが、幸いにも相手から言ってくれた。
「よろしくっ!」
背を伸ばし腰に手を当て、フィギュアと同じポーズをしてみた。
「うわぁー」
タイチ君はまたも目を輝かせる。相当嬉しいのだろう。
「変身できるのか?」死確者に耳元でボソッと呟かれた。声は一緒のままなので、私だと分かったのだろう。
「短時間だけですけどね」私もボソッとし返す。
「な、なんでここにあかぎれっどがいるんですか?」
「それはね——」ようやく本題に入れる。
「アカギレッドのお友達を助けに来たんだ」
私は死確者の肩に手を置く。
「えっ?」タイチ君は死確者の方を見る。
「えっ?」死確者も私の方を見る。
「『今この外には悪者がいるから助けてほしい』と電話で呼ばれたんだ」
私は目線をタイチ君の高さに揃えるため、膝を曲げた。
「今から外の悪者を見てくる。アカギレッドが帰ってくるまで、このおじさんの言うことを守っていてくれるかい、タイチ君?」
コクっと上下に頷く。
「よし! いい子だ。それに、いい子でいたらママにも早く会えるからな」
昔担当した死確者が言っていた言葉を少し変え伝えながら、頭をポンポンと優しく叩くと、嬉しそうにクシャッとした笑顔を見せてくれた。
「じゃあ後は頼んだぞ」それっぽく死確者の肩を叩く。
死確者はフッと笑い、「ああ、任せてくれ」上手く対応してくれた。
チラッと見ると、タイチ君は私と死確者を交互に見ていた。引き続き、目を輝かせている。
「とうっ」私は扉を通り抜けた。瞬間的に、変身を解く。姿を見られて敵にバレるようなことがないように。
瞬間的に、変身を解く。姿を見られて敵にバレるようなことがないように。
恐る恐る顔を上げる。一瞬のタイミングミスが死確者たちの危険に繋がるのだ。
どうだ?——よかった……外の集団にはバレていないみたいだ。
私は白い背広を整え、トイレの中へ。
「静かにしてくれるか?」屈伸状態の死確者はタイチ君に語りかけている。
タイチ君は首を振る。今度は縦。しかも、興奮冷めやらないのか、3度連続して頷いた。
もう既にタイチ君は死確者を信じきっている。作戦は無事成功したみたいだ。
ふと振り返り、私と目があった死確者は立ち上がり、繋がらないケータイを耳につける。
「上手くいったな」
……あぁそうか。
「ヒーローものの類いは一切見たことないので、探り探りでしたが」
アカギレッドの一人称さえも分からないので、苦労した。
「いや十分過ぎるクオリティだったよ。それに、これでこの子は俺のことを信じてくれる。ありがとう」
「いえ、死確者のお手伝いをするのが私たち天使の仕事ですから」
再び顔を綻ばせる死確者。
「良い味方がついてくれたもんだ。よし——じゃあ早速だが、続きを頼む」
「はい」
私は死確者と少年がいつ発見されるか分からない状況の中、できる限りの情報を渡した。
犯人は、奥の金庫から金を盗み出し、持ってきた大きな黒い肩がけバッグにせっせと入れている2人と、人質を見張っている3人の計5人。
体格的に見て、おそらく全員男だとは思うが、もしかするとガタイのいい女性かもしれず、断定はできない。
皆、黒いスーツを着用し、手に拳銃を持っている。
でも、アメリカの映画とかに出てくるような、マシンガンやショットガンではない小型のものではあるが、拳銃であることには違いない。
顔にちゃんと周りが見えるよう目と口の部分がくりぬかれたピエロの——いや、クラウンのマスクをしている。
頰には半径1.5cmサイズの丸があり、見張っている3人がそれぞれ赤、黒、緑と色で内部を染められている。
一方の人質は、銀行員も含め24人で、全員一箇所に集められて、座らされている。
とは言っても待ち時間に客が座る青い長椅子ではなく、入口のもう開かないように設定された自動ドアと受付の間の壁際の地面。どちらかというと、自動ドア寄りな場所に位置している。
手首は後ろに回され、透明な拘束用具がくくりつけられている。
そして、今のところ怪我を負ったものは今の所いない。
「——以上です」
「分かった」
すると、足音が近づいてくるのが聞こえた。
2人分の足音だ。
この状況で歩く人は限られてくる。要するに——
「隠れて、早くっ!」私は空気を前に押しやるようにジェスチャーをしながら気づいてない死確者に伝える。
死確者はタイチ君の手を引き、洋式トイレへと向かう。
足音が近づいてくる。
そして、隠れる。だが、タイチ君だけ。
死確者は隠れなかった。それどころか、私のそばに来た。
「な、何やってるんですか?」
両手でモップを構えている死確者に訊ねる。
「決まってるだろ? 返り討ちにすんだよ」
「さっきも言ったでしょ? 相手は拳銃を所持してるんです。早く隠れて——」
「分かってる。大丈夫だ」死確者は構えたまま返答し、モップを握り直した。
何も分かってないじゃないか……
だが、これ以上言っても聞く耳持たずな感じがしたので、私はやむなく諦めた。
代わりにサポートに徹することにした。
足音はさらに近くに。
敵は、すぐそば。
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