第2話
「ふーネイブさんは堅物だねぇ、ほんと」
ため息をつきつつ移動する。上官と部下という立場で、しかもコウガが敬語なので勘違いされやすいが、ネイブはコウガよりも約半年早く生まれただけだ。二人の間に一般的な意味での年の差はない。同い年だ。違うのは軍属期間。コウガよりもネイブの方が一年強長く軍に属している。そしてコウガは戦場においてそのたった一年、それがとてつもなく大きな意味を持つことを知っていた。だから自分よりも一年長く戦場で生き延び、同い年でありながら自分の上官であるネイブに対して最大限の敬意を持って接する。これもまた同い年であるが故、軽口をたたくことも多いことからよく勘違いされるが。そしてそのネイブが作戦中でありながらあそこまで長く話をした。それだけコウガの情報は重要だったというわけだ。
「ほんと、見間違いであってくれよ。もしくはあれがフェイクで本命は大したことないとかであってくれ」
撃破される可能性が非常に高い先発の調査隊に一世代前とはいえ、ともすれば当時最高クラスと言われた超高級機を投入しているかもしれないのだ。本隊にはどんな兵力がいるか分かったものではない。
「!こちらSA-3。敵影と思しき影を発見。距離推定2500~3000」
「了解。各員迎撃用意。予定通り距離1500より威嚇射撃をSA-1~7より行う。敵反応後行動を開始する」
「了解」
各員が一斉に緊張感を高める。スコープを覗きながらつぶやく。
「さぁて、あれは2DMのどの型だろうねぇ」
「そんなものは終わった後調べなきゃわからん」
ネイブから個人通信で言われる。
「随分と余裕なんですね。終わったら調べるとは」
「調べるわけがないだろう。そんなことはできん。だから正体を明らかにするのは諦めろと言っている」
「なるほど。まぁいいですよ。始まる前に知れないのならもうどうでもいいですしね」
「そうかい。で、今どのあたりだ」
「2200ですね。このようだと部分型主体か?それとも他に懸念材料があるのか?」
「何かを気にしているのか?」
「ネイブさん」
「どうした」
「個人だから言います。ここで引いて再編成という選択はなしですか」
「なぜだ」
「明確な理由はないです。しかしどうも嫌な予感がしましてね」
「その意見、尊重したいところだがそんな理由で引くわけにもいかないのが軍ってものでな」
「知ってますよ。ただ逃げ道はよく考えといた方がいいですよ。命令に忠実なのはいいことか知らないですけど、それも命あってだ」
「今回は随分と臆病だな。どうした?」
「2DMが調査機ですよ。ビビらん方がどうかしてる」
「そりゃそうか。しかし今そんなこと考え」
「敵距離1500内に侵入。作戦開始します」
ネイブの言葉を遮りコウガが全体無線で言う。
「よし、撃て」
ネイブの合図で攻撃が開始される。
「敵加速。...速いな」
「前衛、戦闘開始だ。SA-1~7は後方に注意」
「こちらSA-5。敵近接戦闘陣営を展開」
「...」
「AT-1。接触、交戦を開始する」
「...」
「各班、陣営展開。連携を怠るな」
「...」
「こちらAT-5!敵が想定戦力を超えている!援護をいら...」
「おい?...AT-6!」
「了解。こちらも苦しい。合流する!」
「狙撃援護を!このままでは崩壊しかねない!」
「...どこだ」
コウガがつぶやく。
「AT-6!同5と合流。80後退する。あれは2DM-DX-8だ!」
「SA-5。AT-5の援護に移る」
「同じくSA-2!」
「後ろの警戒はどうした!」
「なんの音沙汰もない!」
「なに?」
「残りの狙撃隊で監視できるはずだ」
「...わかった。前線を援護しろ。反撃を警戒」
「了解」
「SA-2、援護開始」
「攻撃が軟化。AT-5これより反撃準備」
「SA-2了解。SA-5連携を。...SA-5?くそったれ!」
「AT-5、援護一でどうにかできるか?」
「やってみましょう」
「こちらAT-1。こちらはそちらより余裕がある。もう少し余裕が生まれればそちらに回ろうか?」
「そうせずにいいよう努力する」
「...おかしいな」
コウガは違和感を感じていた。期せずして2DMの正体が40や50でないことは分かった。なのにどうもまだ嫌な予感がしていた。おまけに敵のバランス。一部ではこちらを混乱に陥れているのに他では援護に行こうかと言われるほど押されている。ここまで極端に戦力が偏るとは思えなかった。
「やはりこちらになにか抱えていやがるな」
余裕のある方を向く。
「こちらSA-7。こちらも援護に移る」
「SA-7」
コウガが呼びかける
「どうしt」
「SA-7?こちらSA-2。連携を。おい?...またかよ」
コウガの違和感が強くなる。確かに2DM-DXは強力だ。だが先ほどの調査機と同じとするなら自分の受けた反撃はここまで正確でなかった。何かいる。コウガは一瞬思考した後比較的余裕のある方を向き、素早く隠れられるポジションから狙撃した。直後身を隠す。すると自分のいた場所に先ほどとはくらべものにならない精度で銃弾が撃ち込まれてきた。すぐにその場から離脱する。
「こちらAT-1。AT-5の援護に向かう」
「まて!こちらSA-3!」
「どうした?」
「そちらになにかいる。奇襲を受ければいよいよ全体が壊滅する!」
「なに?しかし現場にはもうそのような影はかくに...」
「!!攻撃を受けた!敵の援護か!?後方の警戒はどうした!」
「あほか!初めからそこにいたんだよ!下がれ!」
「くそっ」
「こちらAT-5!すまないがまた下がる!」
「...全隊牽制しつつ後退しろ!」
「!」
「こういうこともある。撤退だ」
「りょうか...」
「!?なぜこちらから狙撃が!?」
「こちらSA-3!強引に道作ってでも逃げろ!一瞬見えたがあれは」
「何を見たんd...」
「いいから撤退」
「牽制は!?隊の連携は!?」
「そんなもんが本当にまだ命つなぐために機能してると思うなら勝手にやっとけ!」
叫びながらコウガは考える。おそらく後退する部隊に対しても手があるはずだ。ならばイチかバチかぶっちぎる...!
本来想定していた退路と別の方向に走り出す。こちらの完全型はおそらく追撃を弱めるため反撃に出る。ならそれに紛れて。そう考えコウガは走る。
「コウガ!何を見た!?」
ネイブから通信が入る。
「一瞬しか見えてないから確信はできない」
「それでもだ!何を見た!?」
「今、そんな余裕は、ねぇ!」
「何をしている?」
「後ろもやつらは対策があるだろう。それも考えといたほうがいいですよ」
「言われなくても」
コウガからやや離れたところで激しい戦闘の音が聞こえる。最後にコウガは一瞬持っている双眼鏡を覗く。
「!initialGシリーズ...!おまけにあれは...」
走る速度を上げる。機械化でもはや人間のそれではない脚力を限界までブーストする。コウガの後ろで轟音が響く。自分を狙っているのが先ほど見たサイボークでないことを祈りながら苦し紛れで手りゅう弾を置いていく。その後はひたすら走る。数秒後もうだれが聞いているか分からないがそれでも無線に向かい言う。
「全力で逃げろ!initialG-4Xだ!」
initialGシリーズ。サイボーク第一世代から第二世代へのきっかけとされた初号機をはじめとして各時代で圧倒的性能を有してきた完全型サイボーク。Gの由来はGodbreaker。神に対してすら一矢を穿つ兵器。
前機体と渡り合うためのサイボーク開発の結果第五世代に突入し、しばらくして開発されたのが第四機initialG-4X。その正真正銘現代最強クラスのサイボークが敵軍にいた。その事実を伝えてコウガは全力で戦線から離脱した。
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