第8話 新生活とは

 哲学に関わることを極力避け、ボクは商学部へと進んだ。

 全く興味のなかった分野で知らないことだらけ。だからこそ、ボクはここを選んだ。


 正直に言ってしまえば、黒川のことを考える時間を作りたくなかったのだ。

 ただ、それだけの事。

 大事なことなのに、遠ざけた。忘れたいわけではないのに。


 友達なんかできないだろうと諦めていたボクは、図書館に通いつめて課題と向き合う時間をつくり、ここで興味がもてそうなことを探していた。

 飲食店でバイトを始めて、同じ学部の知人が出来た。なんだかんだと教えてくれる人や、大学で親しく話しかけられる先輩も出来た。


 正直、楽しかった。いろんな人の話を聞く機会を得た。

 でも、地元の話は絶対にしなかった。ボクは、ここで楽しい思いをしていていいのだろうか。いつもそう悩んで、悩むのが嫌で、苦しくて、逃げたくて。

 実家には夏にも正月にも、春休みにも帰らなかった。


 がむしゃらに勉強とバイトを続けてあっという間に2年になった。

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