第7話 思いとは逆に進む時間

 その日の夜、黒川の家から電話が自宅にかかってきた。

「あの、うちの娘がそちらにお邪魔していないでしょうか……」

 話をきいてボクは茫然としてしまった。

 一度帰宅した黒川は、夕飯に足りないものを頼まれスーパーに行ってからの行方がさっぱりわからないのだそうだ。

 ボクは疑われると思っていたのだが、きちんと一度家に帰っていたことや、黒川から聞くボクの印象はよかったらしく、心当たりを聞かれた。

 そういわれても、頭の中が混乱していてどこも思い浮かばなかった。

「もし、気になる場所や思い出したことがあれば、教えてください」

 憔悴した声が受話器から伝わってきた。

 どこに行ったんだろう……。考えても考えてもどこも浮かばない。ボクは彼女のことを本当に知らないんだなと、愕然とした。

 きっと帰ってくる。大丈夫だ。約束したのだから。


 そして、そのまま、高校時代が終わった。

 黒川は何一つ手掛かりもなく、まるで神隠しのように消えてしまった。クラスメイトも揶揄することもなく、腫れ物のようにボクをみて遠ざけた。もともと、痛いヤツだと思われていたのに、卒業する時にはかわいそうなヤツ。

 ボクは、痛いヤツのままでいたかった。黒川はどこに行ったんだろう。置いて行かれてしまったのだろうか。


 ボクは、今まで黒川と話していたようなことは考えず。

 逃げるように地元を離れ、大学へと進学した。


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