第7話 思いとは逆に進む時間
その日の夜、黒川の家から電話が自宅にかかってきた。
「あの、うちの娘がそちらにお邪魔していないでしょうか……」
話をきいてボクは茫然としてしまった。
一度帰宅した黒川は、夕飯に足りないものを頼まれスーパーに行ってからの行方がさっぱりわからないのだそうだ。
ボクは疑われると思っていたのだが、きちんと一度家に帰っていたことや、黒川から聞くボクの印象はよかったらしく、心当たりを聞かれた。
そういわれても、頭の中が混乱していてどこも思い浮かばなかった。
「もし、気になる場所や思い出したことがあれば、教えてください」
憔悴した声が受話器から伝わってきた。
どこに行ったんだろう……。考えても考えてもどこも浮かばない。ボクは彼女のことを本当に知らないんだなと、愕然とした。
きっと帰ってくる。大丈夫だ。約束したのだから。
そして、そのまま、高校時代が終わった。
黒川は何一つ手掛かりもなく、まるで神隠しのように消えてしまった。クラスメイトも揶揄することもなく、腫れ物のようにボクをみて遠ざけた。もともと、痛いヤツだと思われていたのに、卒業する時にはかわいそうなヤツ。
ボクは、痛いヤツのままでいたかった。黒川はどこに行ったんだろう。置いて行かれてしまったのだろうか。
ボクは、今まで黒川と話していたようなことは考えず。
逃げるように地元を離れ、大学へと進学した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます