第6話 なにがそうさせるのか

映画の後、そのまま解散……というのも勿体ない。

ボクの知らない黒川を知るチャンスだ。

こんな感情が自分にあることにも、とても、びっくりしている。

だが、悪くはない、と、思った。


「あのさ、この辺ってよく来る?」

「うん、田辺くんは?」

「ボクは本屋くらいしかわからない。だから、どこか行きたいとことかあったら、行こう?」

「いいの? ほんとに?」

すごく珍しいものをみたように、驚いている。

「うん、よければ、案内してほしい」

「やったー!」

本当に嬉しそうだ。表情が豊かだなぁ……なんて、つられてボクも、いつもより笑っている。

たぶん、今までの人生の中で一番、楽しい時間が、今。

そして、きっとずっとこのまま、一緒に笑っているのだろう。


「なぁ、黒川」

「なぁに?」

帰り際、駅まで送る時。

「ボクは、今日はじめて、生きているっていいなと実感したよ」

「え?」

「黒川のおかげ、ありがとう。また、どこか行こう。一緒に」

「……うん!」

今日一番の笑顔をみせて、嬉しそうに手を握ってきた彼女は、とてもとても可愛かった。


「じゃぁ、また学校でね」

「あぁ、気を付けて」

「うん、田辺くんも」

「あぁ……うん。ありがとう」


離れたくないなー、なんて。本当にボクはどうしたんだろう。


「田辺くん、ありがとう」


手が離れてしまった。

大丈夫、学校に行けば、また会える。それなのに、何故か気持ちがざわついて。改札の向こうから手を振る彼女に、手を振り返して。

姿が見えなくなっても、ボクはそのままそこに立っていた。

どうして、こんなに寂しいのだろう。

安心するには、どうしたらいいのだろう。

大丈夫、大丈夫……そう言い聞かせて、ボクは自分の家に向かう電車の走る駅に向かった。

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