第3話 その距離を

クラスメイトから揶揄されることが増えた。

それもそうか。クラスで浮いた存在であるボクと毎日放課後ずっと話しているのだから。 多少なり、黒川は大丈夫だろうか、と心配したりもする。

黒川は、変わっているけれどなじめない人間ではないと思う。

少なくともボクよりは……。


「田辺くん」

今日は黒川から話しかけてきた。このケースもだいぶ増えた。

「ん?」

「あの……私が毎日話し相手で、いいの?」

「え?」

何を言い出すんだろう。この問いは以前ボクがしたはずだ。

「もしかして、私、邪魔してないかな……って心配になったの」

「それはない」

「本当?」

「ない」

「……そっかー、よかった」

心底ほっとしたような顔をしている。

「実はね、前にクラスの子に言われたの。どうしていつも一緒にいるの?って。田辺くんに話しかけたい子、いっぱいいるみたい」

「だから?」

「だから……」

「ボクは黒川だから話がしたいんだけど」

「え?」

「前に言ったじゃん。結論が出た時に自分を置いていくなって。だから、それを黒川から言い出すのはおかしい」

「覚えてたんだ……」


覚えていたんだ、じゃない。と、つっこみたいけれど我慢した。


「黒川と話したい。もし、嫌じゃなければ、だけど」

「嫌じゃないよ!すごく嬉しいし、楽しいよ!」

「だったら他なんてどうでもいい」

「……ずるいなぁ、うん。ずるい」

「なにが?」

「亭主関白みたい」

「……なんでそうなる」

「だって……ふふふっ、ごめんおかしくて」

やはり黒川は変わっている。


「だったら、さ」

「うん?」

「嫌じゃなければ、だけど」

「うん」

「亭主関白な彼……だと言えばいい」

「え?」

ぽかーんとした黒川の顔にさらに続けた。

「嫌じゃ、なければ。付き合って欲しい。そういう意味で」

「そういう意味で……」

我ながらなんという告白だろうと思ったけれど言ってしまった。

「嫌なら、その、違う意……」

「よろしくおねがいします」

「え?」

「え?」

顔を見合わせて笑ってしまった。

本当に黒川といるのは飽きない。

だから、話したいし、他の人ではダメなのだ。


「じゃぁ、そういうことで……えっと今日は……」

「うん!」

嬉しそうな顔をしながら、またいつもの話を始めた。

関係性だけは変わったけれど、何も変わらない。


何も変わらない、と、ボクは。

ボクだけは、信じていた。

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