夕闇

「あの夕日綺麗ね。どっかの昔の映画のワンシーンみたい」

「本当にきれいな景色だよね。僕はこんな風景を眺めて居ると昔のことを思い出すんだ。あれは夏休みのことだった。僕はその時友達と家に向かっていたんだ」

「はやなしくんにもそんな時代があったのね」

「当たり前だろう。それに僕はまだ20代だ。あの頃夕日が沈む瞬間を僕は見たんだ。圧巻の光景だった。何もかもがきらめいて見えたんだ。夏が過ぎ去って秋の風が吹いていた」

「いい景色を見たんだね。私も小さい頃に見た景色を今でも覚えているわ。どうしてか忘れられないのよね。もちろん忘れようなんて思ったことはないけれど」

「僕らはこの地上でそうやって生きているんだ。何かあればそれは頭から離れることはない。僕は昔の激しい恋を今でも覚えている。それで今になっても愛した彼女のことを思い出して切なくなったりする」

「はやなし君らしくないわね。恋の話なんて。あなたは普段から恋なんかしそうに見えないもの」

「僕だって恋くらいするさ。僕は日々何かを追い求めている。不思議だね。小さいころから変わってない。いつも何かを探しているんだ」

「見つかるといいわね。探し物」

「いつかきっと見つけてみせるさ。心の隙間を埋めるような何かを」

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