いつだったか

「いつだったか僕は夢の中で空を飛んだことがあったんだ」

 僕は同僚のかわくんにそう話した。

「君が夢の中で空を? 僕はそんな夢は見たことがないな」

 近所のカフェテリアの中はクーラーで涼しい。

「不思議な夢だった。僕はそこで鳥になった。他にもいろいろな経験を夢でしたことがある」

「例えば?」

「僕はジャングルに行ったことがある。昔の古い国の王様になったことだってある。夢の中ならなんでもできる」

「現実はそう甘くはないかい?」

「僕らはいつだって現実にとらわれているんだ。しかもその現実の世界によって見る夢も変わってしまう」

「それは悲しいこと? それとも喜ばしいことかな?」

「僕にはわからないよ。なんたってこれは僕が生きている世界の話だからさ」

「君は小説が好きだろうね」

「僕はすごく読書が好きだよ。本の中なら時代を超えて僕らは生きることができる。その間誰にもその世界を邪魔されることはない」

「僕はそんな風に夢想的にはなれないな」

 たかかわ君はそう言って喫茶店のアイスコーヒーを飲んだ。

「僕はここ最近奇妙な体験ばかりしている。いつだったか月面に恋人と行ったことがあった」

「それは夢の話?」

「いや現実の話さ。これくらい奇妙な経験をしている人間もめずらしいだろ?」

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