月の宇宙生物

いろいろと僕らの間には出来事があった。

ゆいかは結局、まだ帰ってこなかった。

僕は部屋の窓から月の表面をなぞるように見ていた。

月のでこぼこした表面には宇宙生物がいた。

「やあ!」

宇宙生物は僕に手を振った。

「やあ!」と僕も言った。

月面にミサイルを飛ばした後の月はでこぼこしていた。

いろいろと戦争があったのだった。

そして僕は幸いにして惨禍を免れることができた珍しい人間だ。

ドアノブが回りドアが開く鉄の音がした。

「おかえり」と僕は言った。

「ただいま。月の表面のコンビニエンスストアでおでんを買ってきたの」

「そりゃあいいね! ビールと一緒に飲もう」

僕らはビールを月を見ながら飲んだ。

「人間たちはどうして争っているの?」

小柄な宇宙生物たちが僕らに聞いた。

「私にはわからない」

ゆいかは気まずそうに僕のことを見てそう言った。

「僕にもわからないよ」

僕らは天井が抜けたマンションの中でおでんを食べビールを飲んだ。

遥か遠くに銀河が見えた。

爆発した花火みたいな銀河だ。

長い間僕は忘れていたことを思い出す。それはあの地上で経験した数々の日常生活だった。なんの取り留めもない穏やかなゆいかとの生活を思い出す。

月は瞬間はじけた。

宇宙生物たちが浮遊していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る