月面

僕は翌日の朝、月面の上にいた。


ゆいかはけだるそうに月面の上で本を読んでいた。


「どうしてここにいるの?」僕は聞く。


「ここはあなたの世界だから」


「どうしてだろう?」


「打ち上げ花火を見たせいよ」


青い閃光が地球から月に差し込んでいた。とても美しい地球だった。地球は月面から見ると雨のように光が射しこんで明るい恒星だ。


「ねえ僕たち地球に帰らなくていいのかなあ?」


「いいのよ」


僕らは月面の上を低重力で泳いだ。


ゆらゆらと体が月面のわずかな風に揺れる。


もちろん酸素なんてなかった。僕らはいつだって気にしすぎる。


「この世界は奇妙だね。僕らはまるで異世界に来てしまったみたいだ」


僕は月面の上で目玉焼きを焼きトースターでパンを焼いた。


二人で初めて月面に現れてから初めての朝食を食べた。


もちろん月面には朝も夜もなかった。


だから僕らはテーブルの上に座って食事を始めた。


長い間僕らは太陽がやってきては消えていくのを眺めていた。


地上の人間たちは僕らには見向きもしない。ましてや僕らの存在も知らない。


とても長い時間が過ぎた。


ふと気づくと僕らは喫茶店の中にいた。


店内のBGMはピアノとバイオリンだ。


ゆいかは僕のことを無視してるみたいに今日観た打ち上げ花火の話をしていた。


「どういう話だったかっていうとね」

 

ゆいかは僕を見て笑った。

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