天才占い少年の俺と福を分けるタヌキ

大葉よしはる

序話 天才占い少年

1

 俺が見た夢は、小学生のころならどうと言うこともない風景だった。

福分ふくわけ君! 福分りょく君!」

 真新しいランドセルを背負って友達と帰っている「俺」に、何人かの女の子が走ってきた。向こうのランドセルもつやつやしている。

「ほら、○○ちゃん!」

 後ろの方でもじもじしていた女の子が前に押し出された。しばらくうつむいてから話し始める。

「う、占ってほしいことがあるの! ××ちゃんも福分君に訊いてうまくいったし」

 他にいる女の子の一人が恥ずかしそうな顔になった。どうやら××ちゃんらしい。○○ちゃんとやらは空や道路をちらちら見てから「俺」に顔を戻す。

「好きな人がいるんだけど、いつ告白したらいいかわからなくて」

 今の俺にしてみたら「こないだまで幼稚園児だったやつが何を生意気な」ってところだけど、本人は真面目。「俺」も笑い飛ばしたりしない。

「それなら……」

「俺」は、新しいおもちゃを探しているみたいに町のあちこちを眺めた。一緒にいた友達も、テレビの撮影現場に居合わせたような顔でどよめく。

「福分の占いが始まるぞ!」

「今日はどうやって占うんだ」

 そうたたないうちに、「俺」は目を止めた。バスが信号待ちをしていて、横断歩道のすぐ先にバス停がある。きっとバスはそこまで行ってまた止まるはず。

「あれを使おう」

「俺」はポケットからメモ帳と鉛筆を取り出した。いつでもこうできるように準備している。

「あのバスから何人降りるかで占うんだ」

 メモ帳に鉛筆を走らせながら説明する。女の子たちが色めき立って、友達も「おお」と声をこぼした。

「俺」が書き終えたとき、信号が青になってバスが動いた。すぐに停まってドアが開く。

 降りたのは、買い物帰りっぽいお婆さん。サラリーマン風のおじさん。制服を着たお兄さん。そして、バスはドアを閉めてまた走り出した。

「三人だね」

「俺」はメモをみんなに見せた。


〈0→あさって 1→きょう 2→こんどのげつよう 3→あした〉


 日にち順ですらない。バラバラだ。「俺」は思いついたとおりに書いただけ。選択肢以外の四人や五人だったら、なんてことは考えてもいなかった。ありえないと確信していた、と言ってもいいかもしれない。

 いい加減なやり方に見えるけど、幼稚園や小学校に通っていたころはこんな感じで占い方を思いついていた。それでかなり当たっていた。家が神社だということもあって、「天才占い少年」とか呼ばれて町の話題にもなった。占いの結果を聞いた女の子たちも嬉しそうに声をかけ合っていた。

「ありがとう!」

 ○○ちゃんがそう言って、女の子たちは最初と同じように駆けていった。「俺」も感謝されて嬉しかったのか、表情をほころばせていた。

「俺」はまだ知るはずのないことだけど、占いを頼んできた○○ちゃんは告白を成功させる。相手とはずっと仲がよくて、高校も同じところへ進学する。もっとも、今の俺にはどうでもいいことだ。

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