第2話
コンビニで、ビールを買った木嶋等は、祝杯をあげるように、350mlの缶をイッキに開けた。
「えらい世話かけたな」
木嶋は、後部席の神田、鍋倉にねぎらいの言葉をかけた。
「アホ抜かせ、こんなちょろいバイトやったらなんぼでも受けたるわ」
と、神田が上機嫌で煙草を吹かす。
相手が関東を牛耳る巨大組織の舎弟と聞いても、動じることの無い二人の態度に、木嶋は、やはりこの二人を連れてきて良かったと胸を撫で下ろすのだった。
時刻は夜中の3時を回ったところ、いつもよりずっと車の数が少なかった。
「何やえらい静かやなぁ?」
「確かにこんなに車が走ってへん高速も珍しな」
後部席で2本目のビールを飲み始めた二人が、同時にゲップをする。
二人には、報酬として、1割ずつ渡すようになっていた。
当初の予定より倍以上の、70万という額になり、その場で裸銭を渡したのだった。
ヤクザに後払いは通用しない。
「何か、後ろから追い上げてきますよ?」
田下部がバックミラーを気にしながら、スピードを落とす。
確かに後ろから近付くライトの灯りが大きくなり、あっという間にレクサスの横を白のメルセデスベンツが猛スピードで抜かして行った。
しかし急に斜線を変えたと思ったら、ハンドルを取られたのか、腰をふるように、スリップして壁に激突し、そのまま停止した。
田下部は、とっさにブレーキを踏み、ベンツの横を通りすぎる。
「幹雄!ちょっと止まれ」
車は、ゆっくりと左に寄った。
木嶋は、レクサスが完全に止まるのを待たずにドアを開けて外に出た。
後に続くように、神田も鍋倉もゆっくりと降りてくる。
「どないや?運転手は?」
鍋倉が、タバコに火を付けて夜空に煙を吹かす。
木嶋は運転席を覗きこんだ。
エアーバックに顔を沈めてた男が、ゆっくりと顔をあげて、木嶋の方を見る。
その瞬間得体の知れない寒気に襲われ、木嶋は胸に仕込んであったコルトガバメントを取りだし、運転手向けて2発打ち込んだ。
パンッ!パンッ!と、乾いた音が響く。
窓ガラスは、防弾では無かったので、蜘蛛の巣の様にひび割れて、中の運転手の額を貫いた。
「おい!どないしたんや!」
鍋倉がタバコを口から落として車に戻る。
「木嶋!お前血迷うたんか!、早よ、車に戻れ!」
神田も素早く車に戻った。
木嶋は頭を掻きながら、今自分のした事の不可解さを考えながら、車に乗り込んだ。
「カシラ、どないしたんです!?」
田下部が、緊張した面持ちで、制限速度を保ちながら車を走らせる。
「お前、チャカなんぞ持ち歩いとったんか!」
神田だ呆れたように、シートにふんぞり返る。
「何があったんや?」
鍋倉が当然の質問をする。
「あぁ、ようわからんけど、撃ってしもうたわ」
「撃ってしもうたって?あいつ如月会の追ってかなんかか?」
鍋倉が身を乗り出して、木嶋の肩に手をかける。
「いや、たぶん違うやろな」
鍋倉も呆れたように、シートに深く沈みこんだ。
「まぁとにかく、明日はどっかホテルでも取って、鳴りを潜めとけ」
神田が面白く無さそうに缶ビールを飲み干し、片手でクシャリ!と潰す。
阪神高速を降りて、西成に着いた時には、既に午前4時に近かった。
「まぁ、一応何かあったら芦澤に連絡入れたるから、今日は早よ寝た方がえい」
鍋倉が、車から降りて両腕をあげて伸びをしながら、長い欠伸をする。
芦澤とは、鍋倉の所属する組の企業舎弟である消費者金融の顧問弁護士である。
「いや、二人に迷惑かけるつもりはない」
木嶋と、田下部も車から一旦降りた。
「そうは言うても、調べたら俺らの足取りは裏とれるやろ?、まぁバレたらバレた時のこっちゃ」
神田が、ーほなな、っと言って歩き出す。
「ご苦労様でした!」と、田下部が神田の後ろ姿に頭を下げる。
「まぁ、俺も帰るわ、明日…いや今日か、昼間に丸井興産の会食入っとるからな」
鍋倉が、ビールの空き缶を田下部に渡す。
「例の、うめきたか?」
「まぁ、そう言うこっちゃ」
木嶋は、少し前に聞きかじった話を思い出していた。
大阪市は、阪神梅田の北側に都市計画を予定し、周辺のインフラ整備及びマンション建設を、大手のデベロッパーが請け負い、それを大阪のゼネコンが形にするらしいと、武政のオヤジが話していた。
鍋倉の事務所もその話しに食い込む腹だろう。
「おぅ!、お疲れやったな、今夜の事はこっちで何とかするわ」
木嶋は、鍋倉に軽く手を挙げて、再び車に乗り込む。
「どないします?自宅帰りますか?」
田下部が、イグニッションキーを回してゆっくりと車を動かす。
まるで車ごと疲れを感じたかの様に。
「いや、キタへやってくれ」
「佳代さんのところですか?」
独りの部屋に帰るのが何故か心細くなり、自分の経営するキャバクラ、《clubネイキッド・ランチ》の(千春)こと、佳代のマンションに向かう。
佳代は、木嶋の囲う愛人で、マンションも買い与えているノータリンの女だが、いつ行っても、不満を言わないのが、唯一いいところである。
「あぁ、今日はそこで泊まろ思う、着いたら起こしてくれ」
木嶋はシートを倒し、腕を組んで目を閉じた。
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