屍の夜
乱桐生
第1話
阪神高速を、木嶋洋介等の乗るレクサスは、時速150㎞で神戸に向かっていた。
「この前、福本のオヤジに貰うた3番ウッドなぁ?、あれ、オヤジには長すぎてよう振らんから俺にくれたんやろ?」
後部席の鍋倉太一がパーラメントを吹かしながら、隣の神田雄三に目を向ける。
「オヤジの前で背丈の話したあかんで」
神田は、関西指定暴力団、福本組の若頭、
鍋倉とは組は違えど、兄弟の盃を交わした仲、互いの親分の嫌みも、普通なら喧嘩になるのだが、この二人は何故かそうならない。
「ゴルフも最近行ってないなぁ…」
木嶋は、同じく関西指定暴力団の、武政組若頭である。
組長の武政千博は、元々テキヤの元締めをしており、気っぷのいい昔堅気な性格は、誰もが認める極道であったが、
今の世の中テキヤだけでは、組を維持するのはむずかしく、木嶋の提案で、キャバクラの経営に乗り出した。
木嶋の読みどうり、キャバクラは予想以上の売り上げを出し、最初は渋ってた武政も、上機嫌で木嶋に全てを任せていた。
店が軌道に乗ったことで、大阪に3店舗の店を出店するまでになってから、次は神戸に出そうかと思っていた矢先に、1号店のマネージャーが失踪する騒ぎになり、しかも店の売り上げを持ち逃げした事が判明した。
およそ、7ヶ月の間、組織のネットワークを使ってくまなく探し出し、一昨日居場所が分かったのだった。
あろう事か、そのマネージャー(原田慎太郎)は、神戸のキャバクラで、(三好)と言う名前で働いていると言う情報が入ってきた。
《clubダークホース》は、東京から出店して来たキャバクラで、多分地元神戸の主力団体と何らかの折り合いを付けて開店に至ったのだろう。
つまり原田は東京の組織団体に守られているという事になる。
木嶋がキャバクラを経営するに辺り、会計監査を頼んだのが、同じ組員の田下部幹雄という、阪大出の秀才だ。
いわゆるエリートヤクザである。
田下部を運転手に、四人の男が神戸の街に降り立った。
外装は、黒を基調とし、ネームは金色でド派手な装飾の看板になっている《clubダークホース》の扉に木嶋が手を掛ける。
「いらっしゃいませ」
黒服が、口元だけに笑みを浮かべて近寄ってくる。
明らかに警戒心を持った顔を隠そうともせず、木嶋の後ろに居る3人にも目をやる。
何せ、神田は身長195㎝で、100㎏超えている大男であり、スキンヘッドで目付きの悪いところは、どこからどうみても堅気には見えない風貌である。
鍋倉も、神田ほどでは無いにしろ、身長は高い方で、空手の黒帯を持っているだけあって、ガタイがいい。
今回この二人に、依頼したのは、その見た目のインパクトがこの交渉に必要だったからに他ならない。
「三好さんいてるか?」
黒服を押し退けるように、木嶋等は店内に入っていく。
「すいません、三好は今日は休みです」
黒服が両手を広げて、行く手を阻もうと後ずさりしながら、困惑した表情になる。
「そんな訳無いやろ?事務所に案内せぇや!」
店内に響き渡る声で、神田が怒鳴る。
キャバ嬢も客も一斉にこちらに目を向けるが、直ぐに目をそらし、再び会話に戻った。
黒服に案内させて、事務所に入ると、テレビを見ながら煙草を吹かしている男が振り返る。
原田は、木嶋等の姿を見て驚愕の顔付きになり、パイプ椅子から転げ落ちる。
「よう!原田さん、久しぶりやないか?」
原田はその場で土下座の格好になり。
「許してください!許してください!」
と、床に額を擦り付けた。
木嶋が原田の襟首を掴み、身体を起き上がらせると、革靴の爪先で口元を蹴りあげた。
「フゴゥッ!」
何本かの歯が折れたらしく、原田の口から血が流れてくる。
原田はロッカーに寄りかかり、口元を押さえて、涙をながす。
木嶋は次に靴底で原田の顔面を踏みつけるように前蹴りした。
その後も、腹や背中やらを蹴り続ける。
原田はたまらず亀になり、凄まじい暴力の雨が去っていくのを、じっと耐えて待っていた。
息を切らした木嶋は、泣きじゃくる原田の髪の毛を掴み、顔を上げた。
「金はどうなったんや!」
原田の耳元で、唾を飛ばしながら怒鳴り付ける。
と、その時、事務所に一人の男が入ってきた。
「どちらさんですか?」
木嶋等はゆっくりとその男の方に振り向く。
「うちの従業員にそんな事して、只ですむと思わないで下さいよ」
オールバックにした、その男の眼光は、木嶋等と同じ人種の人間だろう事がわかる。
「只ですまんとは、どういう事や?」
鍋倉が、凄みをきかす。
だがその男は、意に介さず、不適な笑みをもらしたまま、木嶋に近付いた。
「あなた、武政さんのところの、木嶋洋介さんですね?」
「だったらなんや?」
「その男が、お宅の売り上げ持ち逃げしたんですか?」
オールバックが、馬鹿にしたように口角をあげる。
(この男は知っている、いやもしかすると 知っていて原田を雇ったのかも知れない)
「まぁ、そう言う事や、分かったらあっち行ってんか?」
「そういう訳にはいかないでしょう?さっきも言ったように、三好君はうちの大事な従業員なんですから」
いけしゃあしゃあと、そんなセリフを吐くのは、こっちに落ち度を見付けて、後の損害賠償の交渉に使うつもりなのだろう。
だが、そんな事はお構い無しでここに来た事が、このオールバックには分かってない。
「わからず屋の坊っちゃんやなぁ」
神田だニヤリと笑うと、鍋倉がすかさず、オールバックの腹めがけて正拳付きを食らわした。
オールバックはたまらずくの字になり、膝をついて、睨み付ける。
今度は神田が、ハンマーのような拳を、オールバックの脳天に振り落とした。
そのまま気絶したオールバックを置いて、原田を連れて店の外に出た。
「あの人、如月会の幹部ですよ!いくら何でもまずいんじゃないですか?」
歯抜けの原田は自分の置かれた状況も忘れて、人の心配するのが可笑しく、木嶋等は笑った。
「お前の住んでるところどこや?」
原田が持ち逃げした売り上げは、300万はゆうに下らない額だった。
原田の住むマンションで、半ば期待してはいなかったが、置いてある金庫には、およそ700万の金があった。
木嶋等は、その全ての金を回収して、大阪に向かった。
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