第2話 色彩の行方



「そう長くは続かんだろ」

確かにそう思った友人に頼まれてボランティアとしてはじめた病院での絵画教室



絵画教室には1度来たきり来たくても来れない子もいる。


今日が最後だろうとそう思っても終わる頃には子供達と何かしらの約束をしては辞めずにを繰り返していた 。


そんな日が続いていたある日



教室の後ろの出入口から車椅子に乗った髪の長いマスクを着けた女性が中の様子を見ていた。それに気付いた私は中へ案内しようと彼女に声を掛けた


その様子を見ていた看護師さんが

「あ!。すみません先生、彼女はあまり人の多い場所はダメなんです、、」



子供たちもそれに気付き彼女の近くへ集まっては

「あー!お姉ちゃんだ!今日は遊べるの?」

「ねぇねぇ見て!これ僕が作ったんだよ!」

「 だめー!私が先に見せるの!!」

などと思い思いに彼女へ話しかけていた。


見かねた看護師さんが間に入り

「ごめんねみんな、お姉ちゃん遊べないんだぁ」


それに対し

「えー!遊びたかったなぁ」

「ねぇ少しもダメなの?」

「お願いー!」

と何人か子供たちが残念そうに言っていたが最後には


「あとでプレゼント持っていくから楽しみにしててね! 約束だよ!」


そう言って落ち着いていた。



「はい!みんな戻ってー!ほらほら時間なくなっちゃうよ〜」


看護師さんが子供たちにそう言っては 彼女と少し会話した後私に


「あのー、先生、代わりにお願いしてもいいですか?部屋までは私がご案内しますので

あ、彼女の担当なんです私。」


言われるがままにというか断る気も無く教室を終えてから看護師さんに案内された病室へ向かった


.

.




病室のドアをノックし

「失礼します。」

そう言って私は中に入った。


「初めまして、先程はご挨拶も出来ませんで」



マスクをしていない素顔の彼女がそこにいた



「あ!先生。はじめまして。いえ、私こそ 楽しそうな声が聞こえてきてつい気になってごめんなさい。でもどうして私の部屋に?」


あまり顔に出ない人間である自覚はあったがそれさえ忘れる程に美しい人だと思った。


「これを子供たちから預かってましてお渡ししたくて、 ここまでは担当の看護師さんが案内してくれました。」


そう言って彼女に子供たちからのプレゼントを渡した。


「あの時、」

そう言った後彼女は少し不安な表情になりながらも

「彼女なにか言ってましたか?私のこと」

と続けて言った。


半分 顔に出てはないだろうかと気になったままだったが



「い、いえ なにも。」


そう返した私の言葉に安心したのか


「そうですか、わざわざありがとうございます。教室お疲れさまです」


そんな彼女の言葉に私も安心して


「ありがとうございます」

と言った




受け取ったプレゼントを嬉しそうに一つ一つ見ながら


「可愛い、 部屋に飾ろうかしら。殺風景で寂しかったんですよね、、、あら?これ先生宛みたいですよ?どうぞ。」

そう言って私に手渡した後


「あっ!私にもある。 お揃いですね、、!

私ったらごめんなさい、つい嬉しくなって」

そう言って彼女は笑っていた。そんな彼女に対して私は


「いえ、私も嬉しいです。またぜひ教室を見に来てください。」

と言った。


「え?いいんですか?」

笑っていた彼女の表情が驚きに変わった


そんな彼女に嬉しくなり私は

「もちろんです!来るように言ってと子供たちにも言われたんで、」

そう言って


「良かったぁ、 行きますね!今日はありがとうございました。」

と言った彼女に


「私の方こそありがとうございました。では失礼します。」

そう言い合って彼女の病室を後にした、

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.

.



次の教室の時間に私は気づけば彼女を描いていた。肖像画なんて長いこと描いて来なかったのに


「 なーに描いてるんですか?先生、ん?女の人 ?」


そう言って覗き込んできた看護師さんに見られた事と自己に対して無意識に描いた紙をクシャクシャに丸めてしまった


「えー勿体無い 。あ!そんな事より昨日はどうでした?」


「あー。なにか言ってなかったかって言われましたよ。」

話す気になれずまだ動揺してる自分もいてそれだけしか言えなかった



「えー?なんですかそれ?まーいいや、でも そっかぁ、、まぁ彼女とは色々あったんです


そこまで言うと看護師さんは私の耳元で


「先生が彼女に絶対言わないって約束して下さるのならお話します、どうします?」

そう言って笑っていた。


.

.

.



(「子供たちも喜んでいたと伝えたらやる気になったみたいで 」)


事実でありながらそれでなくても僕自身が来たい気持ちがあった


その日も彼女の病室へ向かった



「なんだか私もなにかお返ししなきゃ勿体無いです」


「子供たちにとって来てくれる事がいちばんだと思います」






プレゼントをいくつか見たあと、

「やっぱり子供っていいですよね、前は娘を思い出して辛かったんですけどね、


そう言うと唯一の写真立てに飾られた写真を手に取りそれを見つめながら


「この子を産んですぐに、元々体が弱くて 反対されたんですけど この子が愛しくて、それ以来入退院を繰り返してて」


写真を指で何度もなぞっていた


「先生はお子さんは?」


「息子が1人います。」


その間も彼女は写真を見つめたままだった


写真の中の娘さん、看護師さんの話してくれた事、彼女を目の前にして



「あの、今度貴女を描かせてもらってもいいですか?」


今の俺にはただその言葉が精一杯だった

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風に舞う こと @kotogatari

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