第12話 「学校に行きたくない③」

「なんと言えばいいのかな、そもそも興味がなくて、いじめとも思ってなかったんだけど」

 来世は少しだけ、お節介な性格をしていた。子供が好きではないが、強く助けを求められれば人並みには応えようと思ってしまう。

 それでも偏屈へんくつな性格でもあって、素直に教えようとも思っていなかった。


「君になんてアドバイスすれば良いのか分からないけど……」

「……うん」

「例えば君はさっき、俺が特等席と決めていた場所を取ったこと。それを俺が、嫌だって思うとは考えなかった?」

「えっと、それは」

 戸惑う暇も与えずに、来世は言葉を並べていく。


「なんでそうしようと思ったかは、ひとそれぞれだから分からない。構って欲しいのかもしれないし、相手が気に入らないだけかもしれない」

 本当のところは分からないと千鶴に言い聞かせる。


「相手の立場に立って考えることができない奴は多いし、逆に、理解できない行動をする奴もいる。そういうのと目線を合わせて付き合ってあげる義理が、自分にはない」

「ごめんなさい」

「別に、君を責めている訳じゃない。君は結果的に、その勇気と行動力で、俺に悩みを相談するという目的を果たした。それがいつも上手く行くとは限らないけど、その行動力があれば、自分が望む結果を引き出す努力ができると思うよ。頑張って」



 その日の帰り道、千鶴は上機嫌で家まで歩いた。何が嬉しいのか本人も自覚していないが、ふと思い出したように、笑顔になって笑っていた。


「おい、姉崎」

「な、なに?」

 途中で千鶴は、クラスの男子から話しかけられる。千鶴の表情が曇ったのを見て、ばつが悪そうにしながらも、男子生徒はおもむろに口を開いた。


「お前、笑ってた方が明るくて、話しかけやすいな」

「え?」

(そんなこと、初めて言われた……)

 少しだけ、灰色だった世界に、明るい色が広がった気がした。


 次の日、図書館で来世の席から、ひとつだけ空けて座るようになった。隣だと恥ずかしくて、なにより来世が座らない可能性もあった。


 ――やっぱりその日も、来世は”特等席”に座っていた。


 その姿を見て千鶴はほっとして、少しだけドキドキする鼓動が抑えられなかった。

 来世に対する一方通行の本数が、また一本増えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る