小瓶を見つけた

 「SOMETHING」とラベルに印字された小瓶を見つけた。中に何も入っていない。これはイタズラだろうか?

小瓶の存在はまさに嘘の象徴だ。誘拐されて何もない狭い密室に閉じ込められた少女に、現実感が遠い微かな存在に思えてくる。

部屋の隅まで探しても出口は見つからず、不安感でいっぱいなところを、「SOMETHING」の小瓶を見つけて、心が軽く浮き弾むようだった。

それからしばらくは会話が絶えた後の壁に耳を押し当てていた。ただ、「しばらく」では何も起こらないのだろう。音が聞こえるだけだ。

重機が移動する低音域の微振動が頭全体に響く。どうやら工場が近いらしい。微振動は脳みそを包む柔らかな頭蓋骨の形を思い起こす。

 ふと足元を見ると、プリントが幾枚、寄せ集めてある。「こんだて」と書かれた紙がクシャクシャにされて捨てられていたのを手で広げた。

他には「包帯を捨てる」「見回り当番」等、有益な情報を見つけられた。多くはお絵描き用に取っておくらしい、パンフレットやチリ紙がいっぱいある。

そこら中に、菜子という名が強調されている。菜子は人の名か?数々のプリントを見ると、ここでの共同生活に、菜子は様々な役割を担っていることが分かる。

(健康状態可※この子は包帯についた黄色い膿汁を手で直に触れた為、右手薬指の指先から第一関節が変色、皮膚は爪のように硬化している。)

あるプリントにはこう書かれている。そして、菜子の右手薬指に同じ病気があるのを見つけた。ちなみに菜子の絵は上手ではない。鉛筆だけで書かれているので殊更それは貧相に見えた。

長い間、菜子はじっと天井を見つめていた。空想の灯火は燃やし続けないといけない。出口を見つけるまでは。

 ドアを開けた。(何もない部屋でもドアはある。)菜子の与えられた役目は一日の間に行う必要がある。それに何もせずにいるよりかは、行動する方がマシだと思うらしかった。

「包帯を捨てる」について書かれたプリントを胸に抱えながら菜子は部屋を出て、夜明け前の暗い廊下を歩いている。

それによると、「地下1階と地下2階の各病室の前にある患者の包帯を取る、集めた包帯を焼却炉で焼く。」と丁寧に書かれている。

包帯は各病室の前のバケツの中に入れてあった。稀に得体の知れない謎の異物も入っていた、中身は患者に依るのだろう。

触れてはいけない膿の存在を知った後、触れられない・分からないバケツの中の異物の謎は、この先も理解されないと思うと、菜子はある種の頭脳の鈍磨に苛まれた。菜子には病棟に蔓延するほとんどの病気について知らされない。ここで、人とは一度も会話したことがない。

ともすれば頭脳の鈍磨も病気と思いかねない。菜子に限らず「めいぼ」に書かれた名前の人にはこの仕事からくるぼんやりさが性格を冒しているに違いない。

 焼却炉の前には先客がいた。ギョロギョロ呼ばれる、一本の茎に無数の目玉が穂状に咲いている、舌先のように赤い根っこを幾本も生やす浮遊する化物だ。

見慣れた植物に似ている見た目が猫をじゃれつかせる。その度にギョロギョロは繊細で傷つきやすい目玉を爪から守るために、いくらでも考えて工夫することができる。

自然において自然に賢くなる存在……と異形の彼(?)は目玉が傷つかずにいることを自慢している。菜子は「おはよう」と挨拶した。

「目玉はどうやって守るの?」

「ヤバくなったら宙に浮いて逃げるんだ。目玉に傷がないの俺だけだぜ。」

「そうなんだ。」

「今日は6枚か。日ごとに少なくなるね。指の件で減らしてくれてるのか?」

「そんなの絶対ありえないよ。」

「偶然なんだな。ハハハハ……」

菜子が包帯を焼却炉で燃やす時はいつもギョロギョロが手伝ってくれる。避けられるのに猫と戯れたり、植物が焼却炉に包帯を燃やしに来たり、彼はドMなのかもしれない。


----改訂(八月二十六日)

:「クラスメイト」 → 「めいぼ」(l41)

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