「悪夢の正体」

 昨日から一日中動くことさえ出来ていない奏だが、やっぱり勉強できないのは悔しくて勉強しようとした。

「ママ……。勉強しようとしたけどやっぱり無理だった。」

「しようとはしたのね。」

「うん……。」

自分の気持ちを表すことが苦手な奏は、久しぶりに母親の前で泣いた。それは、今まであんなに自分のやりたいことをやらせてもらったのに、自分は何にも出来なくなってしまったことへの謝罪の気持ちだった。

「よく頑張ったね。いっしょにテレビでも見る?」

「ううん。」

「いいじゃん。今は休めば。」

「いいよ、見ない。」

もちろんテレビを見るなんて申し訳ないという気持ちもあったが、実はこの時の奏はもう座ることもつらかったのだ。ベッドで横になることしかできない奏は、何も考えることもできずただ一人になりたかった。今までも奏の性格上、人間関係で苦労することはあったが、今まで経験したことのないほど苦痛。無気力と、体に激しく襲う倦怠感。実際にも、学級閉鎖の後で奏が学校に行けたのはほんの数日だけだった。

 一か月後、スマートフォンで症状を検索してみるとある病気が出てきた。あまり信用はできないが、病気のネット診断でも重症と出るほどだった。そこで、近くの心療内科に行こうと思い、両親にホワイトボードに書いて伝えた。しかし、実際にはまだ予約をしていなかったので、先に両親がスクールカウンセラーに相談してしまった。そして、家から近い病院を勧められたらしく、自分で予約する力もなかったのでそこの病院に行った。(今となってはもう少し調べてから病院選びをすればよかったと後悔している。)診断の結果、「うつ病」と診断された。奏がネットで調べたとおりだったので、あまり感情は揺らがなかったが、後々うつ病について調べると、見ているだけで辛くなることばかり書いてあった。奏自身、うつ病という言葉しか知らなくて、症状や治療方法までは分かっていなかったので、軽い気持ちで調べていたからだ。例えば、

「うつ病は甘えや怠けだ。」

「うつ病になってもう15年、障害者年金をもらって生活しているけど、もう限界。死にたい。」

「うつ病は一生治らない。」

など……。奏はうつ病がこんなにも世の中で批判されていることは知らなかったし、うつ病は簡単にすぐ直ると勝手に思っていたので、人生が終わったとすら思った。奏も死にたいと思ったことが数えきれないほどある。

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