飴ちゃん先生

塩味

第1話僕は用務員

私立天野学園

ドーム何個分というアホな敷地をすべて学校に関する施設に当てている文武両道の日本でも随一にデカイ学園である。

小中高校生、そして大学とだだっ広い敷地に寮や子どもの預かり場所など様々な施設、部活動は全国に並び立ち勉学も有名大学に次々と輩出している学園である。


学園で働く飴を配る用務員の仕事内容を説明しよう。






ヴーッヴーッ


携帯のアラームが頭の上で鳴り響く、放って置いたらいつまでも鳴くので手探りで見つけてアラームを止める。五分程布団に潜ったままでゴロゴロする、心地よい眠気がやってくるがそれを振り払うように体を起こし布団から出る。ヒヤリとする室温がぼんやりとした頭を覚醒させていく、顔を洗い口を濯ぎ目がようやく覚めて来た所でキッチンへ。炊飯器はあと五分程で炊きあがるようで、いい匂いがキッチンに立ち込めている。冷蔵庫から卵を取り出しフライパンに油を引いて温める、納豆と白菜のお漬物を取り出しテーブルへ置いておく。味噌を切らしてしまっていたのでインスタントお味噌汁を開けて器に入れておく。


温まったフライパンに卵を投入し、ジューっといい音を立てて卵が固まっていく。軽く塩胡椒を振りかけてコップ一杯程の水をフライパンに入れて蒸し焼きにしていく、その間にご飯とお味噌汁にお湯を入れてテーブルに置いておくと水分が飛んでしまった目玉焼きをご飯の上にそのまま乗せて完成だ。

卵は半分程固まり残りは半熟になっており半熟部分に少し醤油を垂らしてご飯と一緒にかきこむ、うーん安定した旨さである。納豆の中に白菜のお漬物を混ぜて食べ味噌汁で胃に流す、交互交互に食べてしまって朝食はあっという間に無くなる。


朝のニュースを見つつ身支度をしていると、時間が徐々に迫ってきていた。着替えを済ませて部屋を出て鍵を掛けて、寮を出る。

用務員室に向かい本日の仕事内容を確認して、仕事に必要な物を準備して軽トラへ乗せて正門へ向かう。


正門は既に開かれており、同僚の人と一緒に掃き掃除を行う。落ち葉の季節はまだ遠い為にあまり落ち葉はないがそれでも毎日の掃除は大事なのだ、最近見ているテレビの挿入歌などを鼻歌で歌っていると朝練等の部活生徒達が徐々に登校してくる。

元気な挨拶を聞きつつおはようと返していると自転車でやってきた彼は僕の前に止まった。


「おはよう!守!今週は正門か?」

「おはようみっちゃん」

「まーーだ、俺の事をみっちゃん呼びか」

「仕方ないよ、昔からのクセ出し」

「あのなぁお前がそう呼ぶから生徒達からもみっちゃん呼ばれるんだぞ?」

「まぁまぁ慕われてるってことでいいじゃないか」

「俺はキリっと厳格な先生目指してるんだ」

それは難しいだろうなぁーと口に出さず目の前の友人『渡光秀わたりみつひで』と会話を重ねる。

幼馴染でもある彼は大学に進学し教員免許を取り、歴史科目の先生となった。この学校で出会ったのは本当に偶然ではあったが昔から変わらない明るさと器量の良さで生徒と先生達の信頼も厚い。

みっちゃん先生おはよー!と生徒達から挨拶されみっちゃん言うな!!と自転車で追いかけていく友人を見ると笑ってしまうのは仕方ない事である。時間は7:00に近くなり、そろそろ寮に戻り朝の放送を流す時間と考え片付けをやっていると。


「おおおお、おはよう守…!」

「おはよう紗江ちゃん」

「今週は正門なのね!」

「そうだよ、さっきみっちゃんにも同じこと聞かれてたよ」

「チィ…先に来たかクソ秀め…」

「紗江ちゃんは今日はちょっと遅いんだね」

「今日の授業の準備してたんだけど、どうしても見つからない物があってね…それを朝から買いに行ったから少し遅れてしまったの」

「なるほど、教員はやっぱり大変だね」

「やりがいはあるけどね、あ!もう行かなきゃ!?守今日お昼一緒に食べない?」

「いいよ、食堂かな?」

「時間になったら連絡するわ!それじゃ!」

軽く駆け足で去っていくもう1人の幼馴染である『織田紗江おださえ』みっちゃんと合わせて保育園から高校までずっと一緒に居た幼馴染だ。

紗江ちゃんとみっちゃんは苗字と名前の関係から事あるごとに周りの人達に絡まれていたおかげか仲は良いが喧嘩は絶えない。

三人がこの学校に集まったのは偶然ではあったが僕はとても嬉しいのです。


『えー寮生の皆さん朝ですよー、ご飯ですよー、起きましょうー』


寮に戻ってきてのお仕事は寮生への放送、食堂に向かい寮生達との挨拶。来てない生徒を確認して寮部屋の訪問である。

男子はいいが女子部屋がとても大変だ、ラブコメでは無いんだから着替えてる時を覗くってことはないのだが寝坊をする生徒の1人が無防備過ぎて困るので仲のよい寮生の女生徒に頼んだりしている。半裸で出てきたらお兄さんが捕まってしまうんだよ、えぇ。

出てきてない三名の男子生徒を文字通りに叩き起こし管理人室へ向かい、生徒達から部屋の鍵を預かる、まだ鍵が届いてない生徒の名簿を確認し放送室から名指しで呼んであげると走ってきたのか行ってきます!と叫んで寮を飛び出す男子二名隣室どうし騒がしいなぁと思っていると女子寮側からフラフラと眠り眼でこちらへやってきてアクビをしながらおはよーいってきますーと気の抜けた挨拶をしながら出て行った彼女はまたギリギリだろうなと後ろ姿を見つめる。



生徒達が授業を受ける間の僕達の仕事は様々だ、ただでさえこの学校は広いので仕事は山積みであるのだ。掃除のおばちゃん達が学校の敷地を掃除していき気づいた事を用務員室にメモを張り出していく。


東校舎側倉庫の壁に穴が開いている

運動場を囲む木が少し伸び過ぎている

焼却炉の灰が溜まってきた

などなどetc


こういった雑務をこなすのが僕の仕事。

用務員 雨宮守あめみやまもる

です。


本当は植木職人や大工さん達に頼む仕事なんだけど僕自身大工の息子であり、アルバイトで様々な経験を積んだ結果こうなった。

それでもやり甲斐のある仕事ってのは間違いないのです、道具を置いてある倉庫から必要な物を取り出し軽トラへ乗せて指定の場所へ向かう。とりあえず剪定からはじめようと思い高枝ばさみやノコギリを使い枝を次々に落としていく。落としては乗せて落としては乗せてを繰り返して荷台が沢山になった所で焼却炉横の乾燥場へ持っていく、枝や葉っぱを下ろし終えた所でお昼のチャイムが鳴り響く。午前中の休憩忘れてたなぁ…


ヴーッと携帯が鳴ってメールを確認すると紗江ちゃんからであった。

『東視聴覚室に来て』

食堂ではないのか?


「来たよ紗江ちゃん、食堂に行くのかな?」

「違うわよ、じ、授業でねお弁当を作ったのよ!作りすぎたから守にあげようかなって思って!」

「え?お弁当?ありがとう!紗江ちゃんのお弁当久しぶりだなぁ」

「あ、あまり上手じゃないけど…」

「いやいや、充分上手だって」

「「いただきます」」


……

………


昼飯どうっすっかなーと悩みつつ今日は購買でパンでも買うかと廊下を歩きながら考える俺こと渡光秀。カレーパン無いかなーと妄想していると視聴覚室に女子生徒が群がっていた。

「おめーらなにやってんだ」

「みっちゃん先生静かに!!」

「バレちゃうじゃん!!」

「あ?なんだってんだ…」

「いいから、ほら見てみてよ」

渋々生徒達にならって中を覗いて見ると、幼馴染2人が仲良く弁当を突っついてた。懐かしい光景だなぁーと思ってるとなんで俺には弁当無いんだあのクソアマめと怒りが沸き起こる。紗江は守の事が昔から好きってのはわかってはいるが仲間ハズレは寂しいもんだ、今度2人をからかってやろう。生徒達に出歯亀は終わりと告げ覗きを辞めさせる、ブーイングも起こったが戻らんと次の授業で指名するぞと脅して慌てて逃げていく、学生の本分は勉強だぞ…学生時代を思い出せばそんなことは言えないが。紗江に嫌がらせでメールを送っておくか携帯を弄り購買部へ向かう。


紗江ちゃんとお弁当を食べ終えてお茶を飲みつつゆっくりしていると紗江ちゃんの携帯が鳴って内容を確認するとガタッと立ち上がり廊下に出て行く。どうしたんだろうと疑問に思えば、顔を赤くした紗江ちゃんが帰ってきた。

「どうしたの?」

「な、なんでも無いわ!」

「真っ赤にしてなんでも無いって事は無いだろうに…ほらお茶を飲んで落ち着きなよ」

「あ、ありがとう…(クソ秀コロス)」

「時間も時間出し僕は戻るね、ご馳走様美味しかったよ」

「うん、お粗末様でした。また連絡するね」


……

………


お昼を食べ終え仕事の続きを終えると時間はすでに16:00近い、寮に戻り生徒達に鍵を返して行く。本当は居なくてもいいんだけどね、そこは個人的な拘りである。一度部屋に戻り着替えて部活にいく生徒達、ラウンジ等で勉強をはじめる生徒達、寮の手前の広場で野球をはじめる生徒達。

用務員室に向かい今日の仕事内容を書き出し、事務室にメールを送る。これで用務員の仕事は終わりと背伸びをして軽トラの荷物を片付ける、ポケットから飴を取り出し袋を開けて舐めはじめる、何処かで見てたのか複数の生徒が近づいてきて飴を配る。なんで生徒達は僕が飴を開けると気づくのだろうか…


仕事も終わりゆっくりとしているとコンコンと尋ねる人が来る、誰だと思い扉を開けると複数人の女生徒が居た。皆で勉強をしたいから会議室を借りたいとの申し出だ、夜も更けてくると流石にラウンジなどの広い空間では手足が冷えるのである。了承し、管理の立場の為僕も会議室で共に過ごす事を伝え。管理人室に『会議室に居ます』と張り紙をし生徒達の勉強を監視?付き添いに向かう。ジワジワ迫るテストに多少焦りを感じているのだろう、互いにわからない所を教えあいたまに僕に聞いたりする。多少の勉学は出来るので高校生くらいなら教えれる、家庭教師も経験済みだ。小説片手に生徒達の勉強を観察する、どうやらそれなりに進んだようで22:00前に勉強会は終了した、生徒達にノンカロリーの飴をあげて部屋へ帰らせる。消灯時間が近くなっているので各階の廊下の照明を豆電球だけ付けて残りは消す、最後に低音量の放送で就寝を伝え僕は少しだけ趣味をやって就寝する。




ここは本州のとある場所にある他校よりもちょっと大きな学園の用務員のお話しである。

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飴ちゃん先生 塩味 @Sioazi_solt

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