また日は昇る。そんなのは当たり前だ。

 元妻と男とは、バルゴステルムの風景に大はしゃぎしていた。

 実験に作った農場に匿うことにしてそのまま置いてきた。

 娘はどうしようかと思ったが、元妻が手放さないくらいには愛情があるらしいがそれはそれで気の毒だとも思ったが、親の因果というやつだ。

 そのまま納屋の扉の鍵を開けるのを十日ばかりサボった。

 やることは多かったし、十日という時間は長いようで短いし、そもそも田舎暮らしでは日にちの感覚は蓄えの食料とやるべき作業の量で作られる。

 やりかけだった屋根を張り替えて、男の乗ってきた車が崩した畦を直して、畑を荒らしていた猪をやっつけて、とやっているうちに十日ほどが経っていた。

 その後、街まで行って色々買い物をしたりとするとまた二三日経っていた。

 当然、色々なことは脳裏をかすめたが、バルゴステルムのことも気がかりでなかったわけでもない。

 色々酷いことになっているだろうという予感はあった。

 こっちの人間と向こうの世界はちょっとばかり違う理屈で動いていることは知っていたし、初めてバルゴステルムを訪れたときも、かなり衰えていたと云うより寂れていた。

 まぁそれでも実のところかまわない。ということもできた。

 日本には関係ないことだという事も出来たし、まぁ碌でもない人間が二人ばかりこの世から消えても、正直気にするものも少なかろう。

 余り人に口にだすことでもないし、はっきり云えばこの世の出来事ではない。

 そんな風に、ひとつきばかり言い訳をしていたが、バルゴステルムについてなんとなく後ろめたい責任感を感じて、扉を開くことにした。

 なんというべきか、覚悟していた風景は想像以上に世紀末というか荒廃した世界だった。

 肩に掛けた猟銃と腰に挿した日本刀がなければ、見なかったことにして帰りたい気分でもある。

 だが、むき出しにされた獣性と人間とは思えない所業に、何よりバルゴステルムの荒廃した様子に腹を立てていた。

 いや。

 飾るのはよそう。

 別れた女房が自ら、どれほどに醜い愚かな存在であるかをようやく剥き出しにしたことで、却ってスッキリしていた。

 そして、その新しい連れ合いと誰のタネかわからない娘が、やはりどういう種類の化物であるかがはっきりした。

 まったくそれは、清々しいほどにわかりやすい悪魔の姿だった。

 そうであればこそ、目を背ける必要もない。

 全く容赦をする必要もない。

 いや。

 この悪鬼共を成敗することは、バルゴステルムの領主として全く当然の正義の所業であった。

 幾らか撃ち欠けた銃弾が二箱残っていた猟銃の銃声を頼もしく吠えさせ、奴らが撒き散らす何やらの悪魔の如き生き物を紙切れのように刀で打払い、今は荒廃してしまったバルゴステルムを取り戻すために正義の戦いに邁進することは、かつて楽しんだこともあるファミコンソフトのような、ゲーセンのホッケーゲームや格ゲーのような、音ゲーのような爽快な気分だった。

 くだらない女とその男が恐怖におぞけながら銃弾を浴び命乞いをするのを縦に横に引き裂き、その配下の棟梁のように振る舞っていた小悪魔を藁苞のように討ち飛ばし、バルゴステルムの正義は取り戻された。

 悪魔どもはバルゴステルムの一帯の富を集めていたが、それは思ってもいないほどに膨大なもので、どういう風に運ぶべきか困るほどの量だった。

 そうやって、バルゴステルムの平和は取り戻された。

 だが実のところ、こういった出来事はバルゴステルムにとっても、必ずしも初めてのことではなかったらしい。

 いずれ、また日は昇る。

 そんな当たり前のことがあるように大地ある限り、いずれまた日も落ちる。

 そんなのは当たり前だ。

 太陽の門を開く領主がいるなら、門の向こうから領主以外のモノが現れることも当然にあり、様々なものがもたらされ時は巡る。

 それだけのことである。

 喜ばしい、というわけではなく、悲しむべき、というわけではなく、バルゴステルムに平和が戻った。

 それだけのことだった。

 

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