他人に褒められたのなんて小学校以来の気分だ
ゴロゴロとローラーというよりもロードグレーザーを引きずっているのはなんでなんだと思わないではないが、街道の整備はバルゴステルムの交易路の確保には絶対必要な事業だったからそれは仕方ない。
ある程度の人足を頼るとしても豊かと誇れるほどに豊かではないバルゴステルムで、最も強力な力を持っているものはと云えば、領主その人だという事実は面倒くさくもあるのだが、正直内心誇らしい。
他人に褒められたのなんて小学校以来の気分だ。
いや多分、そんなことはないと信じたいけど、あぁ、むう、覚えていない。
肩口とか腰とか色々あちこちに皮の帯とその上の鉄の輪っかを繋いだ太い鎖とが絡まって、何か映画の衣装のようだ。と少しニヤニヤしたのは職人町の一角で出来上がった道具を眺めて以来もう忘れた。
土地の民兵が使っている皮鎧の中古品に鎖を通せるようにしたものを軛のように仕立てたもので、もちろんかなりいかつい。
革鎧の材料になった動物はヤーバイというサイの皮を被ったイノシシという雰囲気の動物で、森でばったり出くわしてしまうとなかなか危険な生き物だ。
四足の肩がヒトのヘソより高い位置にある動物というのはつまり百キロ超級で、角があり牙があり、弓矢が殆ど効かない硬い皮を持っている。
罠をかければ簡単な相手と猟師たちは云うのだが、その連中でも時たま大怪我をする立派な猛獣だ。
ともかくそう云う凶暴なイノブタの類でできた革鎧なのだが、そういうものに鎖を絡めたものであちこちを挟まないようにして歩くのだが、鎖の位置を間違えたらしくやたらと引っ張りにくい。
こういちいちタイヤ引きで牽いているタイヤがバタバタと後ろで騒ぐような感じでせっかくローラーがあるのになんだか、上手く転がらない。
それでもそのバタつきのおかげで鋤は地面を引っ掻いているらしく、引きずり転がした後は道らしく見えないこともないかという位に締まってはいた。
とりあえずの目的地であるジエドの泉を目指す。
ジエドの泉はバルゴステルムの外縁の土地と見做されたり、或いは周辺の州国の土地と見做されたりする、一種の国境のような土地なのだが、ほぼ枯れることのない確実な水源として様々な意味で無視することのできない土地でもある。
バルゴステルムにとってはコロコロと名前が変わる川の水源のひとつでもある。
ここにも太陽門のようなものがあると信じられてはいるが、実際にそれを見た者はいない。
ともかく細くはなるが周囲の砂漠が広がっても最後までここは水が残っているという土地である。
ゴロゴロと道普請の鋤を牽いてくれば、今日もどちらかへの旅の人々が集っていた。
「おお、ご領主様。今日も道普請ですか。ありがとうございます」
などと声をかけられ、どこかで取れた果物などを頂戴する。
別段この地の食べ物はうまいともまずいとも感じないのだが、人々の好意は単純に嬉しくありがたい。
こういう風に他人に認められ褒められたのは本当にいつ以来だろう。
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