第2話
ついてくる
夕方のカフェは少し混み合っていた。
私はいつもの窓際に座り、コーヒーを飲みながら道行く人を眺める。
通り沿いのカフェの前を様々な人が歩いたり早足で過ぎて行く。
時間帯はバラバラだけどこのカフェでぼんやりする事を日課にしていた。
陽が暮れてきて少しづつ暗さが漂ってきた頃、1人の男性が下を向き早足で過ぎて行く。
視界の端で彼が振り返ったのが見えた。
携帯を無意味にいじりながら顔を上げると、さっき見た男性が反対側から早足で歩いてきた。
彼は何度も後ろを振り返る。
後ろに何かがついてきているか確認するような素振り。
何となく気になって彼の後方に視線を向けても何もない。
変な人だな。
コーヒーを一口飲み、店内を見回すが誰も彼のことを気に留めているような人は居なかった。
カフェに入って一時間が経っていた。
その間、彼は私の前を3回往復していた。
彼は病気なのだろうか。
それとも誰にも見えない何かから逃げているんだろうか。
何とも言えない気持ち悪さを覚えて私はカフェから出た。
それは最悪なタイミングの悪さで、
右側から彼が来たのが見えた。
店内に戻るのも変だし、私は彼の少し先を歩く形になった。
彼は早足で私の横を通り過ぎる。
『気づいていたでしょう?』
突然だったので声の方を見てしまった。
私の視界には振り返っている彼。
その目線の先には、目玉があった。
人の目玉、それが転がりながら彼の後を転がっていく。
声にならない音が私の口から漏れる。
慌てて口を押さえ、立ち止まる。
突然立ち止まった私を迷惑そうな顔をしながら周りの人が通り過ぎていく。
気づけば彼も、彼を追いかける目玉も人混みのなかに消えていた。
あの時から、私はあのカフェには通っていない。
窓際の席にも座らない。
時々、思い出す。
彼はあの目玉から逃げていたのだろうか。
どうして目玉は彼を追いかけていたのだろう。
彼は、生きた人間だったのだろうか。
ふと、後ろを振り返りたくなる時がある。
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