第五節
そうだろうとは思ってたけど、マサの部屋は整理整頓されていて、すげぇきれいだった。オレの部屋とは雲泥の差だ。次元が違う感じ。
本もたくさんある。もちろんマンガとかラノベじゃないし、エッチなのでもない。多分、人生のためになる本だ。どれも辞書みたいに分厚くて、見るからに難しそう。
ほんと、オレの部屋には無いものばっかりだ。別に欲しいとは思わないけど。
「なぁ、これさぁ、ちゃんと読んでんの?」
「うん、読んだよ。そっちのはあまり面白くなかったもので、面白いのはこっち」
オレが指差しているドアに近い側の本棚は面白くなかったヤツで、奥の机の横にあるのは面白かったヤツらしい。
「古本に売らねぇの?」
「売るよ、そっちが一杯になってあふれたときとか」
「なーる。こっちは二軍ってことか」
「そうそう」
「三軍落ちしたのは売って、その金で新人をスカウトする感じ?」
「うん。塾行くついでに、駅前にある大きい古本屋に寄って、新しいのを探すの。新しいのと言っても中古だけど」
「きびしい世界だなぁ」
「マンガだってそうでしょ?」
「まぁな。でも、オレの審査はアマアマだから、よっぽどじゃない限りは放り出さねぇ。おかげで足の踏み場もねぇけどな」
「アハハ」
「震度2でも雪崩が起きるぜ!」
「いやいや」
親指を立ててのキメポーズを取ると、マサは呆れたような笑顔を浮かべた。
「この家は耐震とかちゃんとしてそうだよな。あ、あの天窓とかどうなん? 割れたりしないようになってんの?」
マサの部屋には天窓がある。それだけで金持ちっぽいよな。
「うーん、どうなんだろう?」
「きっとなってるよ。割れたときに飛び散らないようにフィルムを貼ってるか、ガラスが元々割れないタイプのヤツか」
「トモくん、そういうの詳しいよね」
「まぁな。あっ、そういえばさぁ、天窓って夜とか怖くね?」
「あー、怖いね、誰かが覗き込んでいたらどうしようって思う」
「やっぱそうか! こえぇ~!」
「でも、カーテンついてるから大丈夫だよ」
マサは手を伸ばしてリモコンを取り、天窓のカーテンを開閉してみせた。
「あ、そうなん? なーんや」
リモコンで動くカーテンとは、正直驚いた。金持ちってすげぇなぁ。
「満月の日とか、ちょうど見える位置にあるときれいだよ。電気を消しても明るいんだ。本が読めるぐらい」
「へぇ、それいいなぁ。月見酒で一杯ってか」
「いやいや、未成年だから」
「じゃあコーラで一杯」
「うん、それだと普通だね」
「じゃあ青汁で一杯!」
「う~っ、まずい! もう一杯!」
「アハハ」
なんか、今日のマサはノリとキレがいいな。ちょっとオモロイ。
「そんなことよりさぁ、サイコパス診断って知ってる?」
「そんなことっ!?」
唐突に話を変えたことに驚き、マサはショックを受けたときのような顔をした。これがマンガなら『ガーン!』という効果音でも付きそうだ。
実はいつ本題に入ろうかと迷っていて、ひとまず話が途切れたっぽいから強引に持っていったんだけど、さすがに無理だったかな。
「で、サイコパス診断ってなに?」
そうかと思えば、マサも急に本題に食いついてきた。かぶせてくるとは、腕を上げたな!
「これこれ」
オレはカバンから、例の印刷したサイコパス診断の質問集を取り出した。
「……なんか、変わった質問ばかりだね」
質問を読んでいるマサの眉間にしわが寄る。悪趣味な質問が多いからなぁ。
「これは心理テストみたいなものなの?」
「まぁ、似たようなもんだな」
「これの答えは?」
「それは別にしてある」
オレはカバンに手をやった。
「答えがわかっちゃったら面白くねぇじゃん」
「確かにね」
興味を持ったのか、マサは診断にじっくり目を通している。
「それ、家族にも試したんだけど、どうにもウケが悪くてさ。オレは面白いと思うんだけどなぁ。でさ、せっかくだから他の奴にも試してみたくなったんだ。でも変な質問ばっかだからさ、誰に試していいかわかんなくって。おまえなら好きかもって思ったんだけど、どうかな?」
「……うん、面白そうだね」
マサはすべての質問に目を通すと、視線をこっちに戻してニコッと笑った。
「マジで? よっしゃ~!」
気味悪がられたらどうしようかと思って、ちょっとドキドキした。
「それで、どうすればいいの?」
「えっと、順に答えてくれよ。全部終わってから答え合わせな」
「うん、わかった。それじゃあ一問目。親戚の葬式に、あなたは妹さんと出席しました――」
マサは質問を声に出して読み始めた。
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