第四節
ということで昼休み、いつも通り一緒に給食を食べているときに聞いてみた。
「なぁなぁ、今日って遊べる?」
「えっ!」
マサはすげぇ驚いていたけど、すぐに笑顔になった。
「うん! 今日は大丈夫だよ」
そんでオッケーしてくれた。なんか嬉しそうだ。
「今日、塾とかねぇの?」
「うん。いまは塾に行ってないんだ」
「え、辞めたん?」
「うん。前のところはちょっと騒がしくてね、どうも落ち着かなかったんだ。そのせいか、あまり成績も上がらなかったから、今はより集中できるところを探してるんだ。だから、当分は遊べるよ」
「ピアノは?」
「ピアノは土曜日だよ」
「あれ、そうだっけ。忘れてた。そんじゃあ、久しぶりに遊ぼうぜ」
「うん!」
ほんとに嬉しそうだ。あまり遊んでないのかもな。
「あ、今度の中間テストのための勉強会ってことにしたほうがいいか?」
「ううん、そんなことしなくていいよ。大丈夫だから」
「ん、わかった。それにしても、学校終わりに遊ぶのっていつぶりだっけ? 中学に入ってからは一度も無いよな?」
「小五の秋が最後だよ」
「へぇ、そうだっけ? おまえ、よく覚えてるよなぁ。さすが秀才」
「記憶力には自信があるんだ……」
謙遜してるのか、マサは照れくさそうに笑っていた。……けど、なんだろう、どことなく悲しそうに見えた。気のせいかもだけど、そんな感じがした。
そういえば、今日のマサはなんか元気が無い。授業中もぼーっとしてたし、先生にあてられたときもめずらしく間違ったし。
そういえば、休み時間に忘れ物をしたって家に帰ってもいたっけ。アイツが何かを忘れるなんて初めてのことじゃないかな。
ほんと、どうしたんだろう……?
通学路の途中に門のでかい豪邸が建っているんだけど、それがマサの自宅だ。ここらでも有名なお金持ちだ。
豪邸と言ってもお屋敷と呼べるようなものじゃなくて、もっと今時な、有名な一級建築士が建てましたって感じのオシャレな家だ。うちと違って屋根は瓦じゃないし、ソーラーパネルも付いてる。窓も大きくて広いから、きっと日当たりが良いだろう。玄関の前には緩やかなスロープが付いていて、バリアフリーもしっかりしてる。玄関扉は見上げるほどにでかい。
なんというか、考え尽くされた家って感じだ。
この豪邸には何度か来ている。前に来たのは、マサが言うには小五の秋だ。うっすらとだけど覚えている。
床は大理石なのにひんやりしてない。きっと床暖房が入っているんだな。家のリフォームをテーマにした番組とか好きでよく見るから、そういうのはなんとなくわかる。
それにしても、こんな硬い床で転んだら痛そうだ。うちの床はきしんでるし、畳が多いから、転んでもそんなに痛くない。
きしむ床はともかく、やっぱり畳は良いよな、うん。
「ジュース飲む?」
「モチのロン」
「うは、死語だ。ジュース、フレッシュオレンジとゼロカロリーのコーラがあるけど、どっちする?」
「うーん、両方試すのアリ?」
「いいよ」
マサは親切だ、ほんとに両方用意してくれた。何事も言ってみるもんだ。
「ママさんいないの?」
「母さんね。ママなんてもう呼ばないよ」
「そうなんや。で、母さんいないの?」
「そうみたい。最近夜まで帰ってこないことあるから、今日もそうなんじゃないかな」
「そっか」
正直ホッとした。
「安心した?」
「えっ!?」
まさか聞かれるとは思ってなかったので、マジでドキッとした。
「苦手な人、多いもんね。――じゃあ、部屋に行こう」
マサは二階を指差すと、ジュースやお菓子を乗せたおぼんを持ち、先に階段へ向かった。オレはすぐ後をついてゆきながら、(あー、そうそう、こんな家だったなぁ)と前に来たときの記憶と照合していた。
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