第4話   黒ベル姐さん

「忘れ物は……無いな。」


《シシオウ様、明日は入学試験ですね。》


そう今日は入学試験。まさか異世界人を隠す為の自らの設定で試験を受けに行く羽目になるとは…


「シシオウ君今日は入学試験の日ね。忘れ物は無い?」


「大丈夫です。それと受かればそのまま王都の寮に住む事になります。あっそろそろ迎えが来ると思いますので通りに出ていますね。」


「そうね、これから寂しくなるわね。休みの日はたまに帰ってきなさいよ。それじゃあいってらっしゃい、頑張ってね。」


「たまに帰ってきますよ。では行ってきます。」と言い孤児院の前の通りに出ていく。幾分早い事もあり迎えが来るまで今までを振りかえる。

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遡る事一週間前……


盗賊を全滅させて戻って来たのだが、何時もよりかなり遅くに帰ってきた事と心配させた罰として説教と二日間の謹慎を貰ってしまった。


謹慎か……何をしようか?……そうだベルに聞きたい事があるんだが?


《シシオウ様如何いたしましか?》


此方の世界にも武術何々流みたいなのが在ったりするのか?


《御座います、ただ分かるのは在るという事だけで…何処にどんな武術でどんな流派なのかは分かりかねます。ですが、この世界には冒険者になる為の学校が御座います。勿論、十五歳になれば冒険者にはなれますが学校を卒業すれば一年早い十四歳からなることが出来ます。》


成る程ね、冒険者になればお金を稼ぐ手段が手に入り尚且つ外の世界を見て回る事が出来る正に一石二鳥の職業だな。


《左様で御座います、それに学校には色々な種族が居る様でシシオウ様が知りたい情報をより詳しく知るものが居るかもしれません。しかも丁度良く八日後に入学試験が有る様です。》


ベル?何故か学校に行く流れに為っているけど…俺は行かないよ?本は好きだけど勉強は嫌いだしあんまり人付き合いもしたくない。


そもそも学校で上手に人付き合いしようとしたら、猫被って人の眼を気にしないと順風満帆の学園生活を送れないじゃないか、そんな器用な事俺には出来ないよ。


《人の眼とは…今までを盲目だった人の言葉とは思えませんね。しかも順風満帆の生活の為に猫を被る?何処でひねくれたら其処まで身を守る性格になるのでしょうか?もうチキンを通り越してヒヨコですね。》


最近ベルの口撃がひど《は?》くないですね。少しばかりきつ《何か?》くないですね。


ふぅーと、溜め息を付き孤児院での役割である院内掃除を続ける。二階を掃除中に下から先生の声が聞こえる。


「シシオウ君!可愛らしいお客様がきてるわよー!」


俺にお客様?この世界に知り合いと呼べる者は数少ないしかも訪ねてくる人など皆無に等しい、そう疑問に思いながら下に降りていく。そこには前日に助けた商人風の男が立っていた。


「まず急な訪問を致しまして申し訳ございません。私はアントワット商会のコールソンと申します。この度訪問致しましたのは、先日そちらのシシオウ様に馬車を直して頂きましてそのお礼に参りました。」


「シシオウ君が馬車を?本当に?」


先生が疑問に思うのは無理も無い、一般の子供が馬車を直せる技術を持つ言はまず無いのだから。まぁ、そもそも馬車など直して無いしこの男は俺に用事が有るのだろうからそれに乗っかるとしよう。


「はい先生。前に偶々、門番の方に馬車の構造と直し方を教わりました。それで偶然にも故障してた箇所と教わった箇所が一緒でしたので、偶々直す事が出来ました。」


「あら、そうだったのね。…あっ失礼しました、私はこの孤児院の先生をしていますエレナと言います。僭越ながらこの子達の親代わりをしています。それでコールソンさん、お礼と言うのは…?」


「その前に、あの時アントワット商会にとってとても大事なお方を会議にお連れしている所でした。馬車を直して頂いたお陰で、会議に遅れる事無くお連れする事が出来ました。その事で当主より直接お礼にを言いたいとの事ですので、急では御座いますが今から我が当主の泊まる宿にお越し頂けないでしょうか?」


先生は、どうするの?という顔で此方を見てくる。

前日の本当の事を言ってない以上害は無いと思うのだがどう思うベル?


《敵意は無いと思いますのでシシオウ様のお好きにしたら良いと思います。》


それじぁあ当主に会って見るとしようかな?商会ともなると色んな情報も持っていそうだしね。


「今は謹慎中ですので先生の許可が要るのですが…。」


先生は無言で親指と人差し指で丸印を作っている。


「先生から許可を頂きましたので行かせて頂きます。」


「そうですか!当主も喜ばれます!早速向かいましょう。」


コールソンに連れられ孤児院の外の通りに停めてある馬車に乗り込み宿へと向かう、その道中コールソンに頭を凄い勢いで下げられた。


「申し訳御座いません!どうしても、お礼をしたく大変勝手ながらシシオウ様の事を調べさせていただきました。」


「別に気にしなくて良いよ。昨日の事を喋っている訳じゃないしお礼をしたいと言われて嫌な気もしないから。それとこれが本来の喋り方だからその辺りは許して欲しい。」


「勿論でございます。シシオウ様は言葉遣いなどお気になさらずにしてください。おや、着いたようですので詳しくは宿さないにてお話致します。」


宿は街の大通りに面して三つあり、それぞれ安い宿、普通の宿、高い宿となっている。馬車か停まったのは高い宿の前、馬車から降りコールソンに連れられて二階の奥の部屋に向かう。


コールソンはドアをノックし中に入る旨を伝えて中に入る。さすが高い宿だけあってかなりの広さがあり、中央にあるソファーに目当ての人物が座っている。そこにいたのは前日に助けた女の子のマリーだった。


「昨日振りですねシシオウ様。突然のお呼びだし申し訳御座いません、まずはこちらのソファーにお座り下さい。」


マリーに案内される様に対面のソファーに腰かける。腰掛けるのを確認しコールソンは備え付けの紅茶紛いとビスケット菓子を二人に出した。


「改めてまして、私は魔石商アントワット商会当主マリー・アントワットで御座います。私を見て驚く方が多く十三歳の若輩者ですが、こう見えて商会を作り上げた初代当主で御座います。」


実際に幼い顔立ちをしておりシシオウも年下と思っていた。しかも商会をゼロから作り上げたとなれば驚くのは無理もない。だが自己紹介が営業をされてる気分になるのは何故だろうか…


「どうも、改めてシシオウです。」営業されてる気分に馴れてないからか少しばかり萎縮してしまう。


「フフ…すみません少し堅苦しいですよね。シシオウ様はもっと怖い人かと思っていましたが普段はそうでも無いのですね。」


《シシオウ様、この少女見た目と裏腹に度胸が座っております。どこぞのチキン…もといヒヨコとは大違い、いや月とすっぽん…天と地ほど違います。どこぞのヒヨコにも見習って貰いたいものです、そう思いませんか?シシオウ様。》


ソウデスネ、どこぞのヒヨコみたいに口撃をくらい、本当の事だけに心にグサグサ刺さり今にも泣きそうになってる人は大違いですね。


「それでお礼なのですが、シシオウ様の事を調べさせて頂いた時に記憶喪失と知ったのですが……宜しければ記憶を戻すお手伝いをさせて頂きたいと思っています。」


当初の設定のやつだ…たぶん、お礼と善意だろうな…凄く断り辛い。


「つきましては、一週間後に王都ウォルフにあるウォルフ王立学校の入学試験を受けて頂きたいのです。勿論学費はアントワット商会が支払います。」


まさか学校の話が来るとは、ベルと話していたからフラグが立ってしまったか?なんにせよ、断りたいけど断り辛い。


「それと、シシオウ様の強さを見込んで…一年間私の護衛をしていただけませんか?普段は昨日の女騎士二人にお願いしています。女騎士二人には一緒に学校に入学し護衛をしてもらうのですが、もし二人の手に負えない相手の時お願いしたいのです。報酬は一日銀貨三枚を何事も無くともお支払いします。お引き受け頂きませんか?」


色々情報が手に入る旅の資金も手に入るまさに一石二鳥。だが猫を被り続けるのも精神的に辛い、どうするべきか悩む。


《シシオウ様失礼します。このチキンは他人の目を気にするただのヘタレなんですか?バカですか?ヘタレなんですか?チキンなんですか?ヒヨコなんですか?そ○ん野郎なんですか?学校ぐらい行ってくれませんか?ただでさえ保守的な性格なんですから治す努力位してくれませんか?これだからチキンは……ブツブツ……》


は、はい……ベルいや黒ベル姐さんすみませんでした!学校行かせて頂きます。ホント受け身でどうもスミマセンでした!努力も致しますのでその中で勘弁してください。


「それほどの好条件、俺なんかに勿体無い位ですね勿論引き受けさせてもらいます。」


「本当ですかっ!よかったぁ、命の恩人であるシシオウ様にもし断られたら、後は私を差し出すしか無かったです。…わたしはそれでも良かったのですが……」


マリーはパァアと満面の笑みで答えてくれた。最後の言葉は聞き取れなかったけど、もし断ったら色々詰んでた気がするが気にしないでおこう。


「孤児院の方にはコールソンに話を通して貰います。それとこれを…」


マリーはテーブルの上にチョーカーと指輪を置いた、それぞれに蒼の宝石が付いている。


「これは、対魔石と呼ばれる物を加工したアクセサリーです。対魔石は、離れていても対となってる魔石同士で会話をする事が可能です。」


そう言ってチョーカーを渡される際に潤んだ瞳で見上げられ手を包み込む様に渡された。

目にゴミでも入ったのだろうかと思っていると《貴方はやはりチキンなんですね!それともわざとですか!?もしかして天然記念物の鈍感系…絶滅寸前…》と黒ベル姐さんに罵られるが、あまりに恐いので無視を決め込む。


「では、王都に行く際迎えに上がりますので今後ともお願いします。」


最後は握手を交わし部屋を出ていく。

帰り道、黒ベル姐さんに恐る恐る声をかけると……

《シシオウ様どういたしましたか?》と普通のベルに戻っており、内容を伝えずに先程のやり取りを覚えているか確認するも一切覚えていないとの事だった。


それから一週間後、黒ベル姐さんを呼ばないと心に誓い孤児院を後にし今に至る。

そうこう考えてる内に見覚えのある馬車が近づいてきた。


さて、入学試験頑張りますか。

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