第3話  初の対人戦 

「ん~よく寝た。良い天気、絶好の訓練日和だ。」


朝陽が窓から射し込む部屋、周りの寝ている子達を起こさない様に備え付けの梯子で下に降りる。降りた先で朝食を作っている女性が此方に気付いて振り向いた。


「エレナ先生、おはようございます。」


「あら、おはようシシオウ。今日も早いわね、いつもの走り込み?」


「はいっそうです、朝食迄には帰ってきます。」


「大丈夫だと思うけど、気をつけて行ってらっしゃい。」


「はい、では行ってきます。」


エレナ先生とのいつもの会話をして日課である特殊な走り込みを始める。もうかれこれ十年以上は続けているからか孤児院の裏にある門から折り返し地点になってる山の山頂までは直ぐに辿り着く。


「此処からが本番っと。」


「よっ」と声を出し逆立ちできた道を何事も無く帰る。訓練中は魔眼の力を使いピンポイントに魔物に殺気を飛ばしてるので襲われる事はまずない。これが山道で襲われないカラクリ、都合よくこの辺りの魔物がある程度知性が有るから出来る芸当なのかだが。


《シシオウ様、右方向で多数の人が争っているようです。どういたしますか?》


関わりたく無いので門番に報告して帰ろう……いや、やはり行こう。こういう所の積み重ねが受け身な性格を変える要因になるかもしれない。


《かしこまりました。では、右方向に向かって茂みの奥の街道です。頑張ってチキ……受け身な性格を治しましょう。》


もう十年も言われてるから馴れてきたよ。とりあえず行こう、悲鳴みたいな声も聞こえるから。

逆立ちを解除して急ぎで向かった先には、人相の悪そうな人達が馬車を囲んでいる。すでに何人かは事切れ倒れており、残り二人の女騎士風な人が商人風の男と小さな女の子を守っている。


《盗賊に襲われてるようで御座います。数は十三人ですが、どういった方法で助けられますか?》


どうもこうも人の心理を少し利用するだけだよ。


「おーい、貴女達助けは要りますか?」


茂みから急に現れた子供に全員が一斉に注目する。見るからに弱そうな身体、背もそんなに高く無く顔はどちらかと言うと女よりのイケメン。トータルしてもとても強そうに見えない。


「我々は大丈夫だから、キミは逃げて街に伝えてくれ!」


「俺達が逃がすとでも?ねぇ頭ぁ。」


「その通りだぁ、それにお前は綺麗な顔立ちしてるし奴隷として売れば良い金なる。てめぇら、なるべく傷付け無いように捕まえてこい!」


「なっ、外道ども!」


何か向こうで言ってるけど今は気にせずに…

予想通り半分位がこっちに来たか、数は六人、武器は短剣と長剣か。


「異世界で初の対人戦、こちらの戦闘レベルを教えてくれよ。」


静かに呟くと相手の動きを見定める、内一人が長剣を直して殴り掛かってくる。単調な軌道、体重を前に掛けてるのが丸分かり完全に素人。


右腕から放たれる拳をさっと相手の右側に躱し、腕を後頭部に伸ばして重心の足を引っ掻け上げる、と同時に腕を進行方向に力を加え丸を描く。

それに合わせて盗賊の身体は回転し背中と地面が平行になる位で喉元にかかと落としを放つ。


自分の力で回転し、回転してる力の進行方向からのかかと落とし。地面に叩き付けられ首は折れ喉元は陥没、血を吐き絶命する。


「獅子王流【水車落とし】」


仲間の一人が瞬殺された事により、直そうとしていた武器を再度手に持ちへらへらしていた顔が引き締まる。


「お、お前何をした!?」


「何をしたと言われても、襲われそうになったので抵抗しただけだが…まぁ死んだのは不可抗力だ。」


叩き付けられた音で馬車側にいた人達も一斉に注視する。

「どうした!?」「何が起こった!?」など言ってるが、こっちはただの正当防衛をしただけだ。


「てめぇら、餓鬼に舐められてんじゃねぇ!殺しても構わねぇ、餓鬼に舐められてる様じゃ盗賊の名折れだ!」


腐っても頭か得たいのしれない恐怖を一蹴したか。だがする事は大して変わらない、違う空気を流せばいいだけ。


「来いよ雑魚ども。」


「舐めるな。」「ゴラァ。」等言ってるが怒りが感情に出た攻撃ほど読みやすい事この上無い。


振り下ろされようとする長剣の先に一人流し込み、後ろから来る短剣を流れるように躱し前方の盗賊を突き刺させる。

一分も経たずに同士討ちさせて残り五人は絶命した。


「と、頭領ぉ……。」


「うるせぇわぁってる!あいつは間違いなく強い…が、まだこっちはまだ数がいる。おいてめぇらあいつに魔法を放て!」


「卑怯な貴様達の相手は我々の筈だぞ!」


「おめぇらもうるせぇ!」


頭領は騎士風な二人に魔法を放ち馬車に叩き付ける。

「がはっ。」と地面に崩れる。


「おめぇ達の相手は後でしてやるからそこで大人しくしとけっ!」


盗賊四人が詠唱を始める。


「「「「遠くを撃ち抜くのは矢、赤気を纏うは炎」」」」


「「「「フレイムアロー」」」」


一人二本の炎の矢、計八本の矢が放たれようとしている。


《シシオウ様、魔眼の力を使われますか?》


いやいい、ちょっと試したい事がある。

高速で放たれた矢の軌道を見極め全ての矢を流し返す、その際に内気功で身体の強化を行い高速で動ける様にしていた。


<内気功とは全身の血液循環を意図的に高速化し尚且つ気の巡りを循環に合わせて全身に巡らす、そうする事によって通常の十倍位の身体能力を発揮することができる。>


送り返された矢は頭領以外を貫いて絶命させた。


「獅子王流【流水】」


「お、おいっ!何の冗談だ!?魔法を反射する魔法なんて見たことが無いぞ!?」


「何を勘違いしてるか知らないが魔法など一切使ってない。ただ、少々特殊な技を使っただけだ。後は、お前だけだがどうする?」


《シシオウ様最後の一人はどうするのですか?》


投降するなら何もしないけど、もし向かってくるなら倒すまでかな。


「ちいっ!」


頭領は馬車に近付き男を蹴り飛ばし女の子を抱き寄せ首に短剣を突き付ける、女の子は恐怖で声が出ず震えている。


「化け物の餓鬼めぇ、こいつは人質だぁ!こいつを殺されたく無かったら俺が逃げるまで動くんじゃねぇ!」


「お前本当に三下の悪党だな、呆れて何も言えない。そこの女の子、俺を信じてそこから動くなよ。」


女の子は小さく頷く、それを確認し突きの構えをとる。そこから高速の突きを放つ、ただし突きは拳では無く掌を相手に向けた掌底。そこから放たれるは空気の塊、まるで空気砲。空気砲は頭領の短剣を持つ手に命中する。


突然の激痛に短剣を落とし拘束してる手を緩める、そのまま距離を一気に詰め女の子の腹部に掌を当てる。


「獅子王流【内震掌】」


力一杯踏み込み女の子に震動を与える、その震動を後ろに流し内部から衝撃を与え破壊する。


「が、餓鬼が何をし……がふっうぅぅおえぇ……」


頭領は大量の血を吐き絶命した。


《流石シシオウ様、それにしても受け身以外の攻撃手段お持ちだったのですね。》


一様は持ってるよ、それにしてもこの世界の戦闘レベルは呆れるほどよわいな。後、魔法だけど使い勝手が悪そうだな。


《戦闘レベルに関しては、シシオウ様が強すぎるとしか言いようがありません。それと魔法ですが彼らは参考にするレベルではありません。》


「あ、あのう……」


どうやら腰が抜けたのだろう地面に座り込んだ女の子が、覗きこむ様に見てくる。


「あ、あの、助けて…いただき…まして…あり…がと…ございます。」


女の子が若干頬が赤いのだけど体調でも悪いのだろうか?


「その、誠に申し訳ないのですが回復薬をお持ちでは無いでしょうか?男の方はそこまで酷くは無いのですが、女性の方達が……。」


確かに男は大丈夫だろうが女性の方は二人とも吐血している。死ぬまではしないものの街までは非常に苦痛だろう。


「残念ながら回復薬は持っていませんが、それの代わりは出来るかもしれません。」


「では、お願い出来ませんでしょうか?お礼はさせて頂きます。」


「いえお礼は必要ない。ただ一つ条件をのんでもらいたい、それが出来るのであれば引き受けよう。」


「その条件を伺っても?それと差し支えなければお名前を教えて頂けませんでしょうか?私はマリーと言います。」


「名前はシシオウ。条件ですが、俺が今からする事、盗賊を全滅させた事を決して口外しないでもらいたい。それが約束出来るなら治癒をする、勿論他の三人も同様の条件だ。」


《シシオウ様、差し出がましいのですが何故その様な条件を?》


理由は簡単、ただ有名になりたくないだけ。転生前は表と裏の業界で有名に成りすぎて、色んな所からの勧誘や暗殺者を送り込んだりしてくる。

今回はそんな事態に成りたくない。


《理解いたしました。要約するとまだチキンを卒業するには早すぎると言うことですね。》


おっとベルさん、とうとう毒舌を隠さなくなってきましたね。


「…分かりました、条件をのませて頂きます。他の三人には私の方から言い聞かせますので治癒をお願いします。」


マリーは漸く立てる様になり深々とお辞儀をしてきた。「わかった。」と一言伝え女性の方に向かう。


「今から治癒を行う為に前当てを外す、詳しい話はマリーから聞いて欲しい。」


二人の女性は無言で頷く。頷きを確認し前当てを外す、前当ての下は薄手の布シャツだ。その布シャツをお腹の部分だけ捲り上げ地肌に掌をおく。


「獅子王流【治癒気功】」


自らの気を相手に送り込み強制的に細胞の活性化させて自然治癒力を大幅に上昇させる、獅子王流唯一の回復技である。


「これで少し休めば大丈夫な筈だ、だが完全に治ったわけじゃ無いから街に着いたらちゃんと治療して貰ってくれ。」


二人とも痛みが引いたのか顔色が若干よくなりお礼を伝えてきた。それに応える様に手を上げ、マリーの方に向かう。


「治癒は終わった、暫く休めば問題無いだろう。俺はもう行くがついでにこの周辺の魔物を一掃していく。」


マリーを背に向け走り始める。


「シシオウ様ありがとうございます!」


軽く手を振りその場を後にする同時に周辺の魔物にいつも以上の殺気を放つ。これにより周辺から魔物が一日ほど居なくなり街で問題になったのだがそれはご愛敬。


「しまった!かなり遅くなった…怒られるな…。」


この後、急ぎで孤児院に戻ったのだがエレナ先生にこっぴどく怒られ二日間の謹慎を受けてしまった。


《技紹介》


獅子王流

【水車落とし】水の流れを利用する水車。回転を止める際に水を落として止めるのを参考にしている。

【流水】川の流を見て思い付いた技。水は塞き止めても進行方向を変えるだけで流を止める事はない。

【内震掌】気の震動による内部破壊。触れてさえいればどんな対象も任意に狙う事ができる。

【治癒気功】細胞の超活性化を促し自然回復力を急激に早める。


獅子王流は無敵です。

誤字、脱字ありましたらご指摘お願いします。

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