木漏れ日に佇む紅き姫
ふとしたことがあり、森の中で迷子になってしまい、少し休めるところを探そうとしていた男の話。
人の手が入っていない密林の中に入ると、自然と木が開いてある場所につくことがある。そこは落ち葉などのクッションがあったり、木漏れ日が良い感じに揺れていたりと、観察する分には楽しめる自然のアトラクションだ。そういうところで休憩すると、案外涼しかったりもする。
そういうところを見つけたとき、不思議な先客がいた。赤髪のセミロングの少女で、服は少々汚れていたものの、透き通るような白のワンピースを着ていた。腰のあたりについているリボンが、いかにも乙女らしい。
裸足なのにも関わらず、足は全く怪我をしていない。落ち葉のおかげだろうか。
「すみません、ここらに温泉街があるはずなのですが、道を教えていただけませんか」
すると少女は答えた
「私はわかりません。ここは一応人は通るので、その人に聞いてください」
「そうですか、有難うございます。」
少女はじい、とこちらを見つめていた。
人が通るとはいえ、こうして近づいた空間になることは珍しいのだろうか?と男は思った。
しかし、時間が経つにつれ、少女の様子がおかしいことに気づいた。目がずっと潤んでいるからである。何か悲しいことでもあったのか?と不安になる。男は勇気をだして、聞いてみることにした
「どうして泣いているんですか。何か抑えきれないことでもあったのですか」
すると、少女はポロポロと涙を流した。涙が目から離れると、真っ赤な色に染まっていった。血のような色ではなく、花のように鮮やかで美しい赤色。
「ね?可笑しいでしょう?
こんなふうに泣いてしまって、また人が逃げてしまうと思うと、哀しくて仕方ないのです。」
少女は無理に笑おうとし、さらに涙が溢れた。絹のように白い肌が、だんだん涙の赤色に染まっていく。
その少女の姿がなんとも美しかったので、男は少しの間ぼうっとしていた。しかし、いくら少女とはいえ、女を泣かせてしまうことは男の恥だと思うその男は、頬に流れている涙を手ぬぐいで拭い、布や手を赤く染めながらこう言った。
「私は逃げるようなことはしませんよ。むしろ、この場所をいずれは去ることになるのが惜しいくらいだ。貴女のその白い肌に映える赤も素敵だが、きっと笑顔はもっと素敵なのだろう。
ほら、涙を拭いてください。そしてとびきり素敵な姿を、私に見せてください。」
そう言うと、少女はハッとした表情を浮かべ、男を見つめた。ようやく自分を避けない、しかも素敵と呼んでくれる人が現れたのだ。体の底がしんしんと熱くなるのを少女は感じた。
男の手ぬぐいはもう白いところを失い、完全に少女の色に染まった。キラキラと輝く赤。男はきっと、手ぬぐいを宝物にするだろう。
少女は言った
「私に言葉をかけてくださって、有難うございます。
とびきり素敵な姿、私はそれをあなたに今すぐに見せられないのです。身体はどうしてこうもじれったいのでしょうね。」
すっかり涙はひいて、微笑むようになった少女。
「五年後、またここに来てください。そしたら、世界で一番素敵な姿となり、また貴方の前に現れます。」
男はそれを聞いて、もう少女は大丈夫だと確信した。先程あったばかりなのに、どうしてこんなに、実の娘を見るようにほっとするのだろう。
「ああ、それは楽しみだなあ。
五年後、絶対にまた来るよ。また話せるときを今から楽しみにまとう」
その後タクシーがやってきて、少女とは別れた。
夜、男は宿で手記を開き、五年後までの計画をたてた。その計画を全てこなせれば、また彼女と会えると思ったから______
そして五年後、男は妻と共に、少女と出会った場所を訪れた。
すると、そこにいたのは少女ではなく、一輪の真っ赤な薔薇と、小さな手紙だった。
手紙の内容はこういうものだった。
『どうですか?私のとっておきの姿。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます