陸夢 To be…………

―――――――


 あれから数日、数週間。全く何もない日もあったが私はほぼほぼ夢の中で闘っていた。アイコンがあったら飽きもせず「スイさんがログインしました」ということだろう。


「スイ、吉報です!」


 吸い込まれるように気持ちよく入った夢の中で、いつものように待ち構えていたアマテラスが早くこいこいとばかりにテンションアゲアゲで呼ぶ。


「どうしたんですか?」


 ゆっくりアマテラスに近寄ると、アマテラスがぎゅっと手を握ってきた。


「後一つなんですヨ!」

「後、一つ?」


 アマテラスは「そうです!」と人差し指を立てた。


「後一つ吉夢にすれば、クリアです!!」

「ぇえ!? やったー!」


 私は万歳した。終わる。この悪夢が―――


「吉夢デス!」


 アマテラスのツッコミをスルーして私は本当に心から喜んだ。後一つ終わらせれば夢の中までフル稼働生活が終わる。ウェルカム安眠!


「そ、そうとなったら早く行こう。すぐ行こう。瞬で終わらそう」


 逸る気持ちを抑えきれず珍しく自分からアマテラスの腕を引っ張った。


「もう、せっかちさんなんだから。じゃあ行きますヨ」


 なんか嫌な言われ方をした気がしたが、アマテラスが手引きする夢の境に足を踏み込む。いつもならふわりとしてしばらくすると夢の入り口についているのに……


「あれ?」

「…………おや。まさか?」


「「入れない」」


 目の前で何かが弾け、自分の夢に引き戻された。アマテラスも首を傾げている。製作者よあなたが分からなくてどうする。思考を巡らせているアマテラスを他所に、私はもう一度、境に足を踏み込んだ。

 溶け込むような感覚。浮遊感。そして、壁のような……


「待てよ……マズイ! スイ! 戻れ!」


 靄の外からこもったアマテラスの声が聞こえた。意識を向けると焦りを見せるアマテラスの顔があった。これは戻った方がよさそうだと戻ろう踵を返した瞬間、背中に衝撃と、焼けつくような痛みが走った。


「……うっ」


 苦しみの原因、私は自分の腹を見た。こんなの、時代劇とか漫画とかでしか見たことない。私の腹部には背中から貫かれた槍が生えていた。


「だ、誰!」


 夢の中でも、感覚はある。それが現実ほどのものでなくても深々と突き刺さる槍に何とも言えない違和感と、苦しさを覚えて私は必死にその槍の主を探した。しかし振り返っても夢の揺らぎしか見えない。


「スイ! とりあえずこっちへ!」


 アマテラスに引き上げられた私はその場で膝を着き咳き込んだ。なんてリアルなんだろう。初めて血を吐いた。ほんの少しだけ血の味がした。苦しむ私にアマテラスは背中をさすり、欠片もなく槍を消し去ってくれた。


「ふぅむ。なんとまあ。すまないスイ」


 神妙な面持ちでアマテラスは私の頬に手を伸ばし顔をあげさせる。なんだろう、今日のアマテラスは凛々しく見える。夢かな。夢か。薄れゆく意識の中で私は必死にアマテラスの声を待った。


「コンテニューだ!」


 困り眉で、でもキリっと目を吊り上げたアマテラスが勢いよく叫んだ。

 なるほど。私は初めてゲーム上の死を迎えた。


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