肆夢 神様の駒
寝苦しさを覚え、唸りながら目を覚ます。遅れて目覚ましが鳴る。耳元のスマートフォンをとり、目覚まし停止のため画面をフリックした。
夢を見た。夢だ。よく覚えているけど夢だよ。夢。悪い夢だった。疲れた。
私はついでに時間を見る。寝過ごしてもいいようにまだ余裕のある時間。もう少し寝よう。違う夢を見て忘れよう。汗ばむ額に手を置きながら私はもう一度目を瞑った。
「あ、戻ってきたんですか?駄目ですよ。時間がない時はやらない配慮はしてますので」
「…………」
おかしいぞ。戻ってきた。あの夢の中へ。
目の前には先ほどまで見ていた夢の住人もとい神、アマテラスが不思議そうに私を見ていた。
「悪い夢でも見たのかと、思いまして……」
苦し紛れに言うと、アマテラスがずいっと寄ってきた。
「悪い夢だなんて失礼ですネ! ボクの今期傑作のゲームなのに」
凄みを利かせたアマテラス、様、は怖かった。
「スミマセン……」
腑に落ちないことばかりだけど、素直に謝ると、目の前の神様はいつものにこにこ顔に戻っていた。
「ではもう一度目覚める前に、もう少しゲームの説明しておきましょうカ?」
「…よろしくお願いします」
いつも説明が足りないのはそっちだけど。とは口が裂けても言えない。
「……。まずシステムですが…」
一瞬の無言が怖いんですけど! アマテラスの目が一瞬光ったように見えたが続けてしゃべり始めたので気づかなかった振りをして耳を傾けた。
説明はこうだった。
この明晰夢も他人の夢も本物であり、神様が故に干渉できるという。神様たちは物理的世界、つまり現実世界では物事に干渉しないことを互いに契約しているため、夢が覚めてしまえばアマテラスの声を聴くことはできない。もちろん凶事と闘った能力も【ゲーム】と称されている以上夢の中でしか発揮できない。
問題は夢の中まで動いていたら寝不足必須ではないかということだった。しかしそれも夢は夢だから肉体的には実害はないとのことだった。肉体的ということに疑問は残るが。
「でもなんでこんなことを? 完全に神々の遊びじゃないですか」
「そうデス。遊びですヨ。でもボクたちには意味のあるゲームです」
さらっと、且つ、器用に片方の口角だけ引き上げてアマテラスは嫌な笑みを浮かべた。
「ボクたちはよく言われるよう、悠久の時を生きている、存在しています。たまに人間にちょっかいだしたり、うっかりくしゃみしたら竜巻起こしちゃったり、変なモノ作って人間界に埋めてみたりしてますけど、がっつり関われないんですヨ。あくまでボクたちは自然から生まれ人間に信じられた存在だからネ」
だから、とアマテラスは続けた。
「暇、なんですヨ。だからみんなでゲームを考えて実行する。今回はボクが担当することになって……」
ね☆とまた音のしそうなウインクをする。同意を求められてもしがない人間には理解できません。
「で、でも、他の人なんていないじゃないですか」
普通、みんなでするゲームならば、通信型で同じサーバーでログインするとか……
「ま、さか。夢だから……?」
「あ、い……あ、そうそうそうですヨ! さすがボクが見込んだ駒ですネ。理解力があります!」
何か言いかけたのも気になるが駒発言がグサリと突き刺さる。所詮人間は駒かい。
「ここ数十年、人間の生活は大きく変わりましてネ。本当に皆さんバラバラ過ぎて。夢も質が悪いし……と、言うことで運が良ければ巡り逢いますよ。ウン」
そうか。私みたいに何かの神様の駒になっている人もいるのか。神様って何人いるんだろう。そう思案していると耳の奥でアラームが鳴り始めた。現実世界の目覚ましだ。
「サア、早くやりたいと思いでしょうが、ちゃんと学校行ってきてください。神様はゲームのためにずる休みするのは許しませんヨ! ……ミチさんにも怒られるし」
思ってないよ! 後、ミチさんって誰だよ!
その言葉は音になる前に光に吸い込まれた。
もちろん、気持ちのいいはずの二度寝は、目覚めの悪いものになったことは言うまでもない。
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