弐夢 デフォルト検討委員会
アマテラス様に手を引かれ、薄靄の中を突き抜けると、目の前に田舎の風景が飛び込んできた。
「よし。無事、
地面に足を着き、ひと呼吸おいてアマテラス様が満面の笑みで私の背中を押す。
「い、行ってらっしゃいって。どこに? 何をしに?」
訳も分からない私は困惑するしかない。神様、察して。
「何って。君は今から吉夢神としてこの世界、夢の世界にはびこる凶事をやっつけるんだよ」
「き、きちむしん? 何それ。え? なんで私がやっつけるの?」
神様は察してくれない。何を言っているのか説明もない。私が馬鹿なのかな。私は自己嫌悪に陥りそうになった。
「あ、ああ! ごめんごめん。説明何もしてなかったですね。じゃあ、チュートリアルってやつやりますヨ!」
やっと気づいたアマテラス様がパチンと手を叩いた。なんか神様がチュートリアルとか似合わない。
「今から君は吉夢神です。吉夢とは良い夢、良い兆しを与える夢のこと。きつむ、ともいいます。吉夢神とは字の如く、吉夢を与える神様。まあ捏造ですけど。で、吉夢神のお仕事は、悪い夢、悪夢だったり凶夢と呼ばれる夢を良い夢にすることです。とりあえずのシステムでは、凶夢を作る敵キャラがいて、隙をみては片っ端から凶夢の素を夢に植え付けて悪い夢にしちゃうとこかな? 吉夢神は凶夢に侵された夢に渡りその凶夢の素をやっつける。ここまではよいかな?」
ここまではよいかなってまだ続くのかな。なんだろうこの夢は、と思いつつ、
「センセー、どうやって凶夢の素をやっつけるんですか?」
質問してみる。アマテラス様はニヤリと笑って私を指さした。
「そうだったそうだった。まだ君の設定してなかったよネ。ふぅむ。君は木の気か……」
アマテラス様は私を頭のてっぺんから足のつま先までじっくり見つめながら言った。
「木の気?」
「そう、人にはそれぞれ宿す気があってね。陰陽五行説って知ってる? あ、知らないね。えっとね……」
アマテラス様は聞いておきながら、自分の名前も知らなかった私に何の期待もしないように説明してくれた。
陰陽五行説とは簡単に言うと、まず陰と陽。相反するものでありながら、あらゆるものの表と裏、生成と消失といった様に対の関係。そこから自然を創造する五行、水、木、火、土、金の曜日みたいな五つの要素があって、物にも人にもそれらのどれかを宿しているらしく、これらの要素は互いに相性が良かったり悪かったりする。私はその中で木の気を宿しているようだった。
「木の気はファンタジーの世界で言う魔法的要素の風。ボクの世界では神通力。つまり君は風使いってことです。後は武器だけど、何がいいかな?」
そういってアマテラス様の手が空を切ると空中に武器と呼ばれる物騒なものが浮きだした。刀、槍、弓……
「あの棒の先に曲がったナイフみたいのがついてるのなんですか?」
「薙刀ですよ。うーんやっぱり今どきの子は知らないもんだね。後、体術って選択肢もありますヨ! 投げたり蹴ったりする感じデス」
投げたり蹴ったり……剣道も弓道も柔道もやったことのない私は遠くからでも攻撃できそうな槍か薙刀か悩んだ結果、しなやかな薙刀を選んだ。
「うん。君、ナイスチョイスだネ! さて、後は格好!」
初めて手に取る薙刀は、とても手に馴染み違和感がない。初めての経験に感動しているとアマテラス様が満足げに笑っている。そしてアマテラス様が手をかざすと、よくアニメで見ていたような、全身光って変身みたいな光景になった。光ってるのは私だから超眩しい。思わず目を閉じて、光が治まったのを感じて目を開けると、自分の姿が一変していた。アマテラス様と同じような、着物に袴姿。少し違うのはその上にもう一枚よく分からないものを着ているということ。
「これは
「ほ、ほほー……動ぎずらそう」
私はくるりと一回転した。夢の中だからか卒なく動くことはできたが、違和感が半端なくて意識的に重苦しい。
「センセー……じゃなくて、神様。これ短パンとかにできませんか?」
「…………ナルホド。ナイスアイディアです」
アマテラス様は私の頭をポンポンと撫でた。そして簡単にモデルチェンジが叶った。袴は膝丈になり裾はすぼみ、着物の袖も若干短くなった。これなら動きやすい。っていうか、これはコスプレではないのか。
「あ、それと他人の夢に入るからこれもつけて下さいナ」
そう言ってアマテラス様が差し出したのは狐のお面だった。
お面なんて縁日でも付けたことがなかったし、視界不良になりそうだったけどこれも夢のおかげか何の支障もなかった。古き良き狐面は驚くほどフィットした。
「さあ、準備も整いましたし、実践を実戦でやっていきましょう!」
少しだけウキウキしていると、装備が整って今度こそ出発だ! とアマテラス様は拳を握った。
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