番外 流星アカリのその後
二ヶ月前、私はなくし物をしてしまって、一ヶ月間、行方不明になっていた。
その間にたくさんの人にお世話になったんだけど、その人たちは毎日朝から夕方まで川の中に入ってはなくし物を探す私をすっごく心配してくれていたから、その人たちになくし物が見つかったって伝えなきゃいけないと思ったんだ。
お父さんとお母さんは、また私が帰ってこなくなるんじゃないかって心配してたけど、私は光一と三希と一緒に行くから大丈夫って説得したら、光一と三希から却下って言われちゃったんだよねえ。
私のことを心配してくれたって言うのに、また冷たくするんだから……。
困った兄と弟だなあ、もう。
「いや、お前……。父さんが車で送迎してくれるって言ったんだから、なにもまたバスで移動しようとするなよ」
「そうだぞ。バスに何時間も揺られるなんて、体が痛くなるから、もう二度とやりたくない」
「しばらく、バスに乗りたくないもんなー」
「だって、お父さんも忙しいし……」
「俺だって忙しい!」
「おれも!」
光一と三希の忙しいは、遊びでしょ!
もうっ!
まあ、結局――お父さんの運転する車に乗って、家族そろってお礼を言って回ることになったんだけどね。
車には私たち家族のほかに、たくさんの菓子折りが入っている。
ジュンくんの家から始まって、日菜子お姉さんの家。芽衣子お嬢さんと山田さんには会えなかったけど、お屋敷の大旦那様には会えたよ。お父さんとお母さんは、私が大旦那様にお世話になったって聞いて、ものすごーく驚いていた。
うん、まあ……一般人である私が、普通は会えないような人だもんね。だから、芽衣子お嬢さんと友達になった日菜子お姉さんって凄いんだなって……尊敬するよ。
それから、お父さんの仕事が休みの日や土日は、私がお世話になった人たちにお礼を言って回った。
コガネくんのおじいちゃんとおばあちゃんの家にも行ったし、もちろんコガネくんの家にも行って来たよ!
ああ、あの……。赤いロウソクをあげた子には会えなかったなあ。名前も聞いてなかったし、仕方ないか。
そして、今。私は港町に来ているのです。
「アカリ!」
「ロロさん!」
なくし物が見つからなくて、家にも帰れなくて、どうしかようかと迷っている時に助けてくれたのは、港町に住むロロさんだった。
家に帰ることができたら、また、ロロさんに会いに行こうって思ってたんだ。
「久しぶり。元気にしてた?」
「うん、はい! 元気だよ! ロロさんは?」
「私も元気よ」
そうして、しばらくの間、ロロさんと抱き合いながら話をしていると、私の後ろのほうに立っていた三希にどつかれた。
いったいなあ、もう。
「お前さあ。お世話になったのは分かるけど、おれたちのことを忘れるなよ」
「まあまあ、三希。アカリも悪気があったわけじゃないから」
「父さん甘い! 甘すぎる! そんなんだから、アカリが引きこもって外にも出ない寒がりになったんだぞ!」
うっ……。悪いことをしたと思う。
それと、光一の言うことは当たっている。とっても寒がりだった理由は、お母さんと同じで運動不足。寒いからって夏以外はずっと長袖とかを着て、冬になったら暖房の効いた部屋からほとんど出ないで、出る時も毛布を被って過ごしていたから……。まあ、私の自業自得ってやつなのだ。
ちなみに、その寒がりは一ヶ月間、雪が降っている中を歩き回って、毎日のように川の中に入っていたから、すっかり改善されている。
家に帰ってから病院に検査に行ったけど、毎日の適度な運動は必要だって先生に言われた。そして、「冬に川の中に長時間入るなんて死にたいのか!」と怒られちゃったよ。
うん、もう二度とやりたくはないかな。
「もしかして、アカリの家族?」
「うん、そうだよ。お父さんと、こっちが兄の光一。こっちが弟の三希だよ。お父さん、光一、三希。この人はロロさん。私のお世話になった人だよ」
ニコリと笑って、お父さんたちにはロロさんを、ロロさんにはお父さんたちを紹介する。
「初めまして。アカリの父です」
「アカリの兄です」
「弟でーす」
「ふふっ、初めまして。私はロロって言います」
私はたくさんの優しい人たちにお世話になった。お父さんやお母さんから、悪い人だっているって怒られたんだけど、私の出会った人たちの中にはそんな人、一人もいなかったんだよね。私が気づかなかっただけかもしれないけど。
出会った人たちは、皆……私に優しくしてくれた。
その理由なんて分からないけど、私がお礼をするために家に行くと、皆、笑顔で私を家に招いてくれたんだ。
一ヶ月間、いろんなことがあった。出会いも、別れ。体験したことのない生活。
そのどれもが、私にとって大切なものだ。
家族も、もちろん大切だよ。
あの日、お母さんが私に預けてくれたお守りは、一度なくしてしまったけれど、私の知らない世界をたくさん見せてくれた。私の知らない世界と出会わせてくれた。
もう二度と、なくし物はしたくない。
探し物屋さんがいないと見つからない人や物っていうのは、その時、その人にとって一番大切なものなんだって。
あの日、私の一番大切なものは、お母さんから預かったお守り――簪だった。それをなくしてしまったから、私は家に帰ることができなくなったしまったのだ。
でも、今は違う。今、私が一番大切なものは家族だ。お父さん、お母さん、光一、三希。おじいちゃんに、おばあちゃんもね!
そして、出会った人たち。皆、みーんな、私の大切なもの。
人はいつか死んでしまうものだって言うけれど、それは探し物屋さんがいなくてもいいものだ。だってそれは、自然な別れってやつだもの。なくし物なんかじゃない。
「ねえ、ロロさん! あの日、私を助けてくれてありがとう! 私、ロロさんのおかげで諦めずに頑張ったよ!」
「うん、そうみたいだね。とっても幸せそうな顔をしている」
「幸せそうじゃないよ。幸せなんだよ!」
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