第10話 山の子供たちと疑問・1

 ガタゴト、ガタゴト。ガタッ、ガタゴト。

 ロロさんにお礼を言い、港町中央のバス停で南美橋方面行きのバスに乗ってから二時間ほど経っただろうか。

 めちゃくちゃお尻が痛い。そして、振動で腰も痛い。

「背中まで痛くなってきた」

「それは、大変だね」

「電車の長時間移動なら、まだ慣れているんだけど……。バスに二時間も乗りっぱなしでいたことがほとんどないから、ものすごくつらい」

 特に問題なのが、道中にトイレ休憩がないというところだ。

 高速バスと違って、路線バスだから停まるのはバス停かターミナルぐらいだけど、こんな山奥にターミナルはない。

 港町中央から反対方面に向かうと、ターミナルがあるって聞いたけど、一昨日の時点でコガネくんと出会った町を旅立ったってことは、アカリさんがターミナル方面に行ったとは考えられない。

 ショッパから事前に、途中で下車してもトイレはないからって聞いていてよかったなあ。

 水分も食事も最低限。満腹とはいかないけれど、お腹の虫が鳴らない程度のご飯はロロさんの家で食べてきた。

 ロロさんの料理、おいしかったなあ……。

 夕飯はカレー。朝はパンにトマトスープ。スクランブルエッグとウインナー。メルはロロさんが路地裏の猫にあげるために買ったという猫缶のエサをもらっていた。

「電車かあ。ボクは数回しか乗ったことがないから、よく分からないや。距離も数駅程度だったしね」

「ふうん?」

 そういうものなのか。

 まあ、僕も都市部とは言えないけれど田舎とは言い切れない場所に住んでいるから、ショッパの暮らしはよく分からない。

 移動手段が少ないのに、乗客が少ないからってバスが一時間に一本通ればいいとか、夜の八時が最終だとか……。田舎の暮らしって面白そうだけど、大変なんだなあ。

 もちろん、都会の暮らしがいいものとは言い切れないけどね。

「んあ~、体がゆれるわ~」

 メルは僕の膝の上に座っている。最初は眠ろうとしていたんだけど、バスの揺れが酷くて眠ろうにも眠れないらしい。

 まあ、こんなにガタゴト言ってたら眠りにくいよね。

 僕も長時間乗るから、数時間ほど眠ろうかと思ったんだけど、全く眠れない。

 ショッパは数分から数十分、寝たり起きたりを繰り返していたけど、バスが坂道を登り始めてからは起きている。

 綺麗に道が舗装されていないからか、バスは揺れるし、窓の外は雪が高く積もっていて景色に面白みがない。せめて、綺麗な景色が楽しめたらよかったなあ。あまりにも白すぎて、まぶしさで目が痛いよ。






 四時間と三十分ほどバスに揺られた僕たちは、川沿い最後のバス停に立っていた。

 目的地までは残り二時間と三十分ほどバスに乗らなければいけないんだけど、この先の道は道路の拡張工事中で、バス停の位置が変わっているってバスの運転手さんが教えてくれたんだ。

 太陽は僕たちの真上。つまり、今はもうお昼の十二時を過ぎたところで、いいかげんにお腹が空いた僕たちはバスから降りて、次のバスで南美橋を目指すことにした。

 ちなみに、トイレはバス停近くの民家にお邪魔させてもらったよ。優しいおばさんでよかった……。

 ここら辺は商店など、個人の店はあるけどスーパーみたいな大きな店はないみたい。

 のんびりした空気と、のどかな風景の小さな村は、小さな丘と高い山々に囲まれている。

 まあ、一面の銀世界だから、のんびりやのどかと言うよりも、冷たい空気と冷ややかな風景って言ったほうが正しいけどね。

「ねえ、あの丘でお昼ご飯を食べましょうよ!」

「それは、いい考えだね。ヒロト、行こうよ」

「分かった」

 けど、地面には雪が積もっているし、どうやって食べる気なんだろう。

 あの丘に東屋かなにかがあるといいんだけどなあ……。

 サクサクと、誰の足跡も残っていない川沿いの雪道を歩いていると、丘のふもとに八人の僕よりも年下だろう男の子と女の子たちがいた。

 全員が雪に濡れるのも気にせず地面にしゃがみ込み、両手で両耳を隠しながら丘の上を見つめている。

 なにを見ているんだろうと思って丘の上に視線をやると、そこには赤いなにかがユラユラと揺れていた。

 あれは、なんだろう?

「ヒロト、あの子たちがなにをやっているのか聞きに行きましょうよ」

「うん、そうだね」

「あの赤いやつ。火?」

「遠くてよく分からないけど、火がついているように見えるね」

 とりあえず、行ってみよう。

 僕たちは雪に足を取られないように気をつけながら、丘のふもとまで歩いて行くと、女の子の中で一番小さい子が僕たちの足音に気づいて振り向いた。

 うーん、どうやって話しかけようか。

「ねえ、この場合はどう話しかければいいと思う?」

「えー? お昼だし、こんにちはーって普通に話しかければいいんじゃないの」

「そうよねえ。ほら、ヒロト。あの火みたいなのがなにか、さっさと聞いてお昼ご飯を食べましょう?」

 ……メル、お腹が空いたから早く終わらせたいんだね。






「ねえ、知らない子がいるよ」

 トト乃の言葉でオレたちが振り向くと、そこにはトト乃の言った通り、村の子供ではないエン太たちより年上の男の子たちがいた。

 男の子の一人は、なぜか猫を抱っこしている。

「どうしたんだろうな」

「お、お化けだったりして」

 ビビりのキク也は隣にいたシシノ助の後ろに隠れてしまった。

 ううん……。

 こんな田舎に用でもあるのかなあ?

 どっちも都会の子っぽいし……。迷子、とか?

「お化けなわけないでしょう、キク也。こーんな田舎に来るのは物好きか、親戚の家に用事がある子だけよ」

 キュウはそう言うけれど、よく分からない。

 今は工事中だけど、この近くの道は山の向こうにある海のほうから、あの山の向こうまでバスが走っているから、たまたまこの村に降りただけかもしれないよ?

 だって、ばあちゃんがバスに乗るとトイレに入れないから、途中で降りてトイレを貸して欲しいってお願いしなきゃいけないって言ってたんだ。

 目的地までの距離が遠ければ遠いほど、どこか知らない場所で降りないとトイレもだけど、ご飯も食べることができないから大変だとかなんとか。

 今は丁度、お昼を過ぎたころだから、あの子たちはお昼ご飯を食べるためにバスを降りたのかもしれないよ。

「あ、こっちに近づいてくるよ」

 猫を抱っこした男の子が、もう一人の男の子にひっぱられながら近づいてきた。

 オレたちに、なんの用だろう?

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