第7話 港町とロロ・1
港町中央。
雪はそれなりに積もっているけれど、人通りが多いせいか歩くのに苦労はしない。
……いや、する。
踏み固められた雪は滑りやすくて、スパイクのついた靴ではなく、ただの長靴を履いている僕には少し歩きづらいのだ。
ただの長靴と言っても、防水と防寒はしっかりしている。滑り止めが少し弱いだけで……。新しい長靴を買おうかな。
「ねえ、ヒロト~。こんなに人が多いんじゃ、アカリを知っている人を見つけるのは大変じゃないかしら」
「そうだけどさあ……」
アカリさんの足取りを辿るには、探さなきゃどうにもならないじゃないか。
「ほら、ショッパ。行こうよ」
「……うん。そう、だね。行こうか!」
隣にいるショッパは、笑顔を浮かべているけれど、どこかぎこちない。
出会った時のような、ニコニコとした笑顔とは違うような気がする。
バスの中で、なにがあったのかは分からないけれど、僕は知らないフリをしよう。
まずは、アカリさんを見つけるのが先だ。
「それじゃあ、まずはアカリさんを知っている人を探さないといけないよね。人通りが多いから、大声で『アカリという名前の女の子を知っている人はいますかー!』って聞いてみる?」
「それ、聞くって言うより叫ぶよね」
そんなこと、気にしないでほしい。
あの町と違って、なかなか人が多いから一人一人にたずねていくよりは早いはずだ。
……多分。
「アカリって名前の子は、結構いると思うから、別のアカリさんが出てくる可能性のほうが高いと思うよ」
「そっかー。まあ、そうだよね」
同級生にもアカリって名前の子は数人いるし、先輩や後輩にもいる。
どうしたら、確実に僕たちの探しているアカリさんを知っている人を見つけることができるんだろう?
「ねえ、ヒロト」
「なに? ショッパ」
「これって、必ず人に聞かなきゃいけないの?」
……どういうことだろう?
「ほら。人通りが多いからって、全員がこの港町に住んでいる人とは限らないでしょ? ボクたちと一緒に、あっちの町や村から来た人もたくさんいたし……」
うん、確かにそうだ。
僕たちがバスに乗った時は、ほんの数名しか乗っていなかったけれど、村のバス停を過ぎたころには、ほぼ満員。何人か降りてはいたけれど、その代わりに乗ってくる人は多かった。
僕たちと同じバス停で降りた人は多かったので、目の前に広がる人混みの中には、僕たちのように別の町から来た人も多いのだろう。
そうだ!
「ねえ、メル。この町の猫と話ができないかな?」
「うん? できないことはないけど、どうするの?」
「あ、そうか! ヒロト、いい考えだね」
お、ショッパも気づいたみたいだ。
「あのね、お店で働いている人はおいといて、町中を歩いている人たちの誰がこの町の住民かは分からないでしょ? でも、この町に住んでいる猫や犬、鳥とかの動物なら、ある程度のネットワークというか情報共有はしていると思うから」
「知っている子が確実に見つかるってことね!」
「うん!」
「それなら、私に任せてちょうだい」
そう言うと、メルは僕の腕から飛び降りて近くの路地裏へと走って行った。
それにしても、メルは猫だけど人間の言葉をしゃべっている今、猫の言葉をちゃんと理解できるのだろうか?
まあ、猫だからなんとかなるだろう。
僕とショッパはここで、気楽に待てばいいだけだ。
……とは言っても、メルが路地裏に入ってから三十分ほど。メルが戻ってくる様子はない。
「メル、遅いね」
「ねー。とりあえず、日が暮れる前に帰ってきてくれるといいんだけど……」
「そうだね。あ、ヒロトたちはどこか泊まる場所があるの?」
泊まる場所かあ。考えていなかったな。
「うーん。あの町にお世話になったカフェのお姉さんがいるから、知り合いの宿屋さんでも紹介してもらおうかなって思ったんだけど……」
「子どもと猫だけじゃ、簡単には泊まらせてもらえないと思うよ」
「それなんだよねえ」
本当、どうしようか。
「あら、それなら私の家に泊まる?」
「……へ?」
いつの間にか僕たちの目の前にいた、中学生ぐらいに見えるお姉ちゃんが話しかけてきた。
お姉ちゃんの家に、泊まる……?
「ボーッとしちゃって、大丈夫?」
「へ? あ、大丈夫です」
「それならよかった。アナタたち、この子の飼い主でしょう?」
そう言うお姉ちゃんのカバンの中から顔を出したのは、路地裏にいるはずのメルだった。
「えっと、はい」
確かに僕はメルの飼い主だけど、メルはどうしてお姉ちゃんのカバンの中にいるんだ?
「勝手にカバンの中に入れちゃってごめんね。路地裏で猫たちが集会しているところに、漁師さんの家から魚を盗んだ子がやってきたみたいで、逃げ遅れたこの子が漁師さんに追いかけられていたところを保護したの」
な、なるほど。
って言うか、路地裏で猫の集会してたんだ。それは、ちょっと見たかったな。
ショッパも「猫の集会見たかったなあ」と言っている。
それにしても、逃げ遅れたのかお前。
メルをジロリと見つめると、メルは恥ずかしそうにカバンの中へ隠れていった。
仕方ない奴だなあ。
「あの、メルを保護してくれてありがとうございます」
「いいよ~、別に。私は猫の集会の写真が撮りたくて路地裏にいただけだし、たまたまって感じ」
たまたまだとしても、助けてくれたのだから感謝するしかない。
「そうだ。アナタたち、アカリのことを探しているんでしょう?」
えっ?
もしかして、お姉ちゃんはアカリさんを知っているのだろうか。
「あ、はい。そうです」
「ボクたちは、アカリさんを探しに隣の町からやってきたんです」
「ああ、それは猫ちゃんから聞いている。君は、探し物屋なんだよね?」
僕に視線を向けたお姉ちゃんは、僕が探し物屋だと言った。
メルがすでに説明していたのだろう。
「はい、そうですよ」
「それならよかった。あと、ここで話すのもなんだから、私の家に行きましょう。着いてきて」
「あ、はい! 行こう、ショッパ」
「うん!」
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