2017.8/5
8月4日の夜。いつかのように再び兄と僕が父親に呼び出された。
「色々考えたんやけど、鎮静剤っていうのを打つことにした」
話を詳しく聞くと、鎮静剤を今の母に打てば痛みは治まるらしいが、血圧が急激に下がり、その命が2日と持つことはないとのこと。
つまり、既に痛みで思考もままならない状態のまま延命処置を続けるよりも楽に逝かせてあげた方が母の為なのではないか、と父は考えたらしい。
僕らはそうか、と話を聞くことしかできなかった。
小説や漫画なんかじゃ死ぬ人というのはカッコいい遺言を残したりするものだけど、どうも実際、人間というのはそんな綺麗には死ねないらしい。ここ最近は痛みに悶えるだけだった母の最後の言葉など、わからない。
そして次の日。8月5日。
僕は朝から夏期講習があったのでその時は塾にいた。授業が終わって携帯を見ると、父親から連絡が入っていた。
母が亡くなったと。
まずは、2日どころか1日も持たなかったな、と思った。
それほど身体も弱っていたのだろう。前々から覚悟はしていたし、今更母の死に対して動揺はしなかった。
だけど、混乱はしていたのかもしれない。
母親から再三言われていた言葉があった。
『私のことよりも自分の受験を優先しなさい』と。
自分が辛いのにも関わらず、息子のことを何度も何度も気にかけていた。
だからというわけではないだろうが、知らせを受けてから2、3時間程僕は塾の自習室に篭って勉強していた。
今考えると母の死の直後だというのにおかしな話だが、きっと日常的な行動をすることで気分を落ち着けたかったのかもしれない。
それに、家に帰って抜け殻となった母の身体を確認するのが怖かったというのもある。
しかし、さすがに時間が経てば踏ん切りもついた。
相変わらず現実味はなく、模試の前日なのになぁ、なんて呟きながら僕は帰路についた。
家に着くと、見知らぬ車が家に止まっていた。葬儀屋の車は、近所の人などに無闇に噂されないように社名などは一切書かないという話を聞いたことがある。
そして家に入ると案の定、父親が兄とともに葬儀屋らしき男性と話をしていた。
そしてそのすぐ近くには、母の遺体。
ちらりと横を見ると、いつの間にか祖父も来ていたらしく久しぶり、と言って僕は軽く会釈した。
再び母に向き直る。
前から覚悟はしていた。
知らせを受けたときも淡々と反応した。
だけど。
どうしても涙が、止まらなかった。
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