2017.4〜7
そして4月になり、僕も高校3年生。受験生となった。
たまには母の病気のことを思い出し、何かサポートしようとするものの、そんな僕に対して母は受験に専念しろ、自分のことだけ考えろ、というばかりだった。
ちょっとした瞬きの合間に春も梅雨も過ぎ、7月に入った。
すると母は再び入院することになった。
どうせまたすぐに退院するのだろうと思っていた僕に対して父親は告げた。
「お母さんな、もう家には帰って来られへんかもしれんねん」
愕然とした。
兄には僕より先に伝えてあったらしく、父親に「お前は兄貴に比べて冷静やな」と言われたけれど、多分言葉の意味をうまく実感できていなかっただけだ。
だって、そうだろう。つい先日まで元気そうにしていたのに。もう帰って来ない?何だそれ。
話を詳しく聞いたが、もうよく覚えていない。要約すると、あらゆる手を尽くしたがもう治療の見込みがない、とかそんなことを言っていたと思う。
すぐに父と兄と僕の3人で面会に行ったが、元気な母の姿は無く、母は点滴のチューブをつけて、ベッドに弱々しく横たわっていた。
本当はこの時話すべきことが、話さなくてはいけないことが沢山あった。
だけど父と兄がいる手間、なんとなく感傷に浸ったようなことを言うのは気恥ずかしくて憚られた。本音を言うことができなかった。
だから、一つだけ約束をした。
「僕の小説の最新作、また今度見せるね」
「ありがとう。楽しみにしとくわ」
ちなみに母親は自分の友人などにも自分の病気のことをほとんど知らせていなかったらしく、この状態になって初めて連絡したという。
後に父親に理由を聞くと「人に迷惑をかけたくないから」だ、そうだ。そもそも先のタイミングで連絡したのも、「今伝えないと後で旦那さんがご友人たちに責められますよ」と言われたかららしい。
きっと再入院するまで気丈に振る舞っていたのも家族に心配をかけさせないとしてのことなのだろう。無理をさせてしまったかもしれない、と胸が痛くなった。
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