見えちゃう人との生活
@himaganai
第1話 支店長の訪問
私の姉は、所謂「見えちゃう人」で、日常生活の中で、様々な心霊体験をして、
親や兄弟に話し、皆はそれを真面目に聞いてていた。普通ならば、子供の他愛無い作り話と聞き流される筈だが、家族揃ってちゃんと聞いていたのには訳があった。
それは、姉と一緒にいると、自分もその体験に関わってしまうため、信じざるを得ないのだった。そのエピソードは沢山あるが、今回は私と母がその場に居合わせた話をお聞きいただきたいが、その前にお伝えしたい事がひとつ、姉は、この世に存命していない多くの人と出会うのだが、会った時にはその人が亡くなっていることを知らない場合がほとんどで、したがって、何ら恐怖を感じる事がなく、普段通りに接し、後で事実を知って驚くのだが、墓地だとか恐怖心を感じる場所で合った訳でもなく、相手もいたって普通の身なりをしているので、怖い経験という記憶は
残らないらしい。だから、姉のリアクションの小ささをご理解いただきたい。
その体験をした時、姉は今は合併して行名も残っていない都市銀行の定期預金担当としてベテランの立場にいた。
その当時、支店長は不治の病に侵され、長期入院をしていた。その妻からの申し出により、支店には新しい支店長が赴任していたが、本人には知らされておらず、行員が見舞いに行く度には、早く退院して復帰してくれないと大変だと、励ますのが慣例になっていた。
そんなある日、支店長の妻から、いよいよ危なくなったとの連絡があり、次長と
ベテラン行員の姉が見舞いに行くことになった。
姉はベッドの周りに親戚が集まり、最後の時を見守っている光景を想像しながら病院に着いたが、実際には、支店長は起こされたベッドに寄りかかっていたものの
意識もはっきりしており、支店の営業成績や取引先の状況を次長から聞いていた。
あまり、長居をするのも不自然なので、恒例の挨拶をして病室を出て、廊下を歩き
ながら見送りに来た妻に尋ねると、医師が言うにはろうそくが消える前に大きな炎を上げる様な状態で、もってあと数日と聞かされ、銀行に戻った後、みんなに状況を報告し、その日の勤務を終えた。
その日の夜、私と母は玄関脇のリビングで話をしていた。そこに、姉の話し声が
聞こえてきた。姉は玄関の前で誰かと話をしているようだった。それを聞いた母は
テーブルの上を片付けて、不意の来客を迎える準備をしたが、ドアを開けて入って
来たのは姉ひとりだった。
誰と話していたのかを尋ねると、姉は首をかしげながら、門から玄関に向かって
いると、後ろから声を掛けられ、振り向くとそこにはスーツを着た支店長が立って
いたと話した。支店長は、医師から外泊許可を貰えたので、見舞いに来てくれた人達に挨拶に回っていると話し、姉は、不審に思いながらも、少し元気なうちに本人の願いを叶えてやろうという医師の心遣いなのかと納得し(そんな事はあり得ない
というのは、後で気が付いたそうだが)、じゃあ、家に上がってお茶でもと勧めると、次長の家にも行かなくてはならないからと、見舞いのお礼の言葉を告げると足早に帰って行ったと言いつつ、余命幾日もない支店長の病状や、今日の見舞いの話を私たちに報告していたら、そこに電話が鳴った。
その電話は、皆さんのご想像通り次長からで、支店長の死去を連絡網で伝えて来たものだったが、姉が、つい今しがた支店長が来たこと、そして、次に次長の家に
行くと言っていたことを伝えると、電話の向こうから次長の叫び声が聞こえて来た
「やめてくれー!」、その声は現在も私の耳に残っている。
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