私の話を聞いてください①

けものフレンズ大好き

私の話を聞いてください①

 これは僕が本当に体験した話です。

 自分一人の胸にしまっておくにはあまりに大きすぎる話なので、どうしても皆さんに聞いて貰いたいんです。

 とりあえず聞いたら呪われるとかいうような類いの話ではないので、そこは安心して下さい。

 それでは始めさせて貰います。(念のため、知りたくない人の為に長めに改行しておきます)




















 僕は昔から大の恐がりでした。

 怖い話を聞きたいとも思いませんでしたし、自分からそういう場所に肝試しに行こうなんて考えたこともありません。

 だから自分に霊感みたいなものがあるのかどうかさえ分かりません。

 僕が好きなのはアニメや漫画やゲームといった、そういう方面のものです。「怖い!」と言うより「萌え~」と言っていた方が何億倍も楽しいと感じる人種です。

 自然、僕の交友関係もそういう人間ばかりになり、進んで怖い話をしたり、怖い場所に行こうとしたりする友人は一人もいませんでした。

 その中でもとりわけ仲のよい友人(仮にB、C、Dとします、言うまでもなく全員男です)とは、大学進学を機に上京してきてもLINEを通して密に連絡を取り合っていました。

 今回の話は、彼らとグループでLINEをしていたやけに涼しいある夏の昼間に起こりました。

 その頃僕は体調を崩して家で寝込んでることが多くなり、暇を持てあまして四六時中彼らとLINEで駄弁っていました。その時は皆で秋から始まるアニメの新番組の話で盛り上がっていました。

 そこでBは、あるアニメの担当声優を発表したサイトがあるから、絶対見た方が良いとあるアドレスを書き込みました。

 そのアニメの原作の漫画の大ファンだった僕は、すぐにそのページを開きました。Bはどちらかといえば真面目で、何より僕と同じような小心者であり、悪戯はむしろされる方なので、僕は言われたとおりのページがあることを全く疑いませんでした。

 しかしそのアドレスを開くと、真っ白い画面にびっしりと漢字のようなもの(後でそれが梵字と呼ばれる物であることが分かりました)が背景に書かれ、延々とお経が流れるページに繋がったのです。

 あまりのことに僕は、その時軽く漏らしてしまいました。

 それほど、何の心構えもしていなかった僕にとって、この出来事は衝撃的でした。

 当然僕は思いきりBに文句を言いました。

 普段は絶対に使わないような「死ね!」とか「殺してやる!」とかいった物騒な言葉も使い、あらん限りにBを批難しました。

 僕の剣幕にCとDもビックリしたようでした。

 しかし、僕からすればこれは当然の反応です。

 だから僕は2人に「このページを開けばなんで起こっているのか分かる」と言ってやりました。

 けれど、2人ともそんなアドレスは知らないと言うんです。

 LINEは電話と違ってはっきり証拠ログが残ります。

 僕は急いでバックログを調べました。

 すると、先ほどのアドレスが既読メッセージのどこにもありません。

 それどころか、今まで会話していたはずのBの発言さえ一切なかったのです。

 そのことについても聞くと、CとDはそもそも今までBはいなかったとさえ言われました。

 もちろんそんなはずはありません。

 CもDも、それまでBと普通に話していたんですから。

 まるで僕だけ違う現実を見せられているかのようでした。

 そこで僕は一旦LINEを止め、Bに直接電話をして確認することにしました。

 すると、応対に出たのは聞いたこともない声の女性でした。

 一瞬番号を間違えたかと思いましたが、そもそも遙か昔に電話帳に登録した番号なので間違いのわけがありません。

 ただ、気の小さい僕は、すぐに「間違えました」と言って電話を切りました。

 すると、逆にBから電話がかかってきました。

 小心者の僕はすぐにはでられませんでした。

 それが幽霊からのものではないかと、そんなことばかり考えてしまいました。

 結局僕の出る決心がつかないまま、電話は切れました。

 正直僕はほっとしました。

 しかし、そのすぐ後にBからのメールが届いたのです。

 僕は反射的にスマホの電源を切りました。

 あの時は、もう本当に泣きたくなりました。

 ――いえ、実際泣いていたかもしれません。

 とにかく、とても1人でメールを見ることなんて出来ません。一人暮らしなので、一緒に見てくれる人もいません。だからといって無視するのもまた怖く、自分一人ではどうしようもありませんでした。

 そこで僕は、僕同様一人暮らしで近くに住み大学で友達になったEの家に、体調不良を押してメールを一緒に見てくれと頼みに行きました。

 まだ夕方前というのが幸いでした。もし夜だったら外に出ることもできず、家でがたがた震えていたでしょう。

 Eは都合のいいことに家にいて、暇そうにテレビを観ていました。

 僕はEに事情を説明して泣きつきました。

 Eはかなり面食らっている様子でしたが、話を最後まで聞いてくれました。

 ただその後、「面白そうな話だな」と笑顔で言いました。

 Eは今まで人生で仲の良くなった人間たとちと違い、オカルトが大好きな人間だったのです。

 普段ならなるべく近づきたくない人種ですが、今回ばかりは渡りに船でした。

 そのE曰く、「サイトの件は後にして、とりあえずメールは見た方が良いと思う。そっちは着信履歴も残っているし、反応から見ても死人が出したものである可能性は低いからな」とのことでした。

 僕は言われたとおりすぐにスマホの電源を入れ、Eの前でメールを開きました。

 すると、メールを描いたのはBの母親で、その内容は衝撃的なものでした。

 実はBは友達と旅行中事故に遭い、現在生死の境をさまよっている、と。そして、ここ最近はずっと集中治療室に籠もっていると――。

 僕はこのメールを見た瞬間、Bに呪われたんだと思い、どうしようもないほど取り乱しました。Bが自分を道連れにしようと知る以外、あんな事が起こった理由が全く思いつきませんでした。

 そんな僕にEは言いました。「そのサイトって、今どうにかして見られないものか?」と。

 僕は思いきり首を横に振りました。

 僕には決して興味本位で見ていいものには思えなかったのです。

 ですが不幸中の幸い、というか幸い中の不幸というか、僕には人並み優れた記憶力がありました。東京の、しかもかなり偏差値の高い今の大学に合格出来たのもそのおかげで、ほとんど一瞬でしたが特徴的なそのアドレスはしっかり覚えていました。

 ちなみに今こうして話ができるのも、その能力のおかげかもしれません。

 僕にしてみれば一秒でも早く忘れたい記憶ですが。

 嫌がる僕に「これは大事なことなんだ、俺の考えが間違いじゃなければ放っておくとお前が大変な目に遭う」と、Eはすごい剣幕で言い、僕は渋々アドレスを教えました。

 Eが自分のパソコンでそのサイトのアドレスを入力すると、モニターにあの時見た画面と全く同じページが表示され、お経も聞こえました。

 僕は思わず耳を塞ぎましたが、Eはじっと画面を見続けていました。

 そしてやおら僕にスマホを借すように言い、着信履歴を見てBに電話をかけました。

 BGMのお経が怖くて僕はずっと耳を塞いでいたため、何を話していたかは分かりません。

 しばらくしてEは電話を切り、僕の手を耳から強引に離して言いました。

 以下、僕とEとの会話です。

「なあA(僕のことです)。お前は理詰めで話した方が納得しやすいから、順序立てて説明する。お前がお化けとかに会ったとき、助けて以外なんて言う? 誰にすがる?」

「それは神様に……聞きかじりお経を唱えたり……」

「そうだ。お経って言うのはそもそも、生きてる人間が助けて貰うときに唱えるものだ。逆に悪霊にとっては害にしかならない。で、だ。もしそのBが悪霊なら、自分が苦しむようなお経をお前に教えるか?」

「それは……確かに理屈に合わないかな……」

「そうだ。じゃあなんでという話だが、お経の目的を考えると、Bはむしろお前を鞠たかったんじゃないかと。そこから考えられるもっとも合理的な可能性が、他ならぬお前が被害を受けているんじゃないかいうものだ。じゃあ誰からって話だが、そうなると候補は登場人物しかいない。そう思ってBのオバさんに電話して確認したら案の定だった。知っての通りBは旅行中に事故に遭ったんだが、同行者はほぼ即死だった。その同行者がCとDだ」

「え……」

 僕は文字通り絶句しました。

 その時の驚きは今でも思い出せます。

 何故ならここ最近ずっと四人でLINEでやり取りをしていたのですから。

「そこで俺はこう考えた。お前が最近体調不良になったのも、実はB共々お前を道連れにしようとしてたCとDの仕業で、LINE内のBの存在はまやかしだった、と。けれど、死の淵からBが、お前にあのアドレスを伝えてCとDから助けようとした。つまりこのサイトはお前の命綱なんじゃないか、と」

「・・・・・・」

 荒唐無稽な話でした。

 けれど、オカルトにトンと疎い僕は否定する論拠も持たず、何より何かにすがりたかったのでEの話を鵜呑みにしました。

「とにかくしばらく体調がよくなるまでこのお経を聞いて、お前も真似でもいいからお経を唱えた方が良いと思う。そうしたらお前の思いが通じてBも死の淵から生還出来るかもしれないぞ。あとしばらくLINEはしないでおけ」

「・・・・・・分かった」

 僕はその日からEの言われたとおり、あのサイトを開き続け、念仏を唱え続けました。

 その間、LINEに異常な数(それこそ10万ぐらい)の未読メッセージが発生したり、突然停電したりと不可解な出来事が起こりましたが、3日もすると何事も起こらなくなり、体調もすっかりよくなりました。

 無宗教の僕の念仏が効果的だったとは思えませんが、Bの母親から聞いた話によると、Bもなんとか意識を取り戻したそうです。


 以上が僕が体験した話です。

 これを期にそれまで一切霊的なことに遭遇しなかった僕の生活が一変してしまったのですが、それはまた別の機会にでも。

 ただ、この出来事を通して僕がもっとも怖ろしく感じたのは、霊的なことより、今まで親友だった僕まで道連れにしようとした、人間の暗い執念の方でした……。

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