EP.01 結シN: C-part <ID: 番テGEME>
家は、デル・アドバンテージにとって退屈でしかない。
貴族の中の名家、アドバンテージ家。
トルムの中なら知らぬ者はいない、名門中の名門。
アイリスに乗る者は、<
それは貴族にとっての責務だ。
歴代のアドバンテージは、
そのアドバンテージ家の一人息子。
デル・アドバンテージは期待されていたのだ。
だからこそ、だからこそ——
「そこのカス、近づかないで」
デルがアイリスを起動できない者と知るや否や、アドバンテージ家の人間からは、ロクな接し方をされなくなった。
「ソニア、なんだその態度は」
今の発言も、実の妹であるソニア・アドバンテージによるもの。
目の前の可憐な彼女は、縦ロールにピンク色のカチューシャがトレードマーク。
デルより六つ年下で、背も低い。
本当なら可愛い妹のはずなのだが、デルに対して高飛車で見下した態度をとる。
デルが「金髪以外に共通点が見つけられない」と思うほどに。
「だって、パナセルの加護を持たない人間なんて価値ないじゃん。貴族として価値ないじゃん。何度言ったら分かるの?」
「ふざけるな! 兄に対してそんな敬意のない接し方、それでも貴族か」
「だ・か・ら〜、貴方にはそんなことをいう資格なんてないわけ! アドバンテージ家の一人息子だからここにいられるのよお? 他に男の子がいたら、貴方は貧民層に売られていたのよ。分かったら早く出て行け!」
——あーあ、私が男の子だったら、あんなゴミクズはこの家に居なかったのに。
彼女の部屋を離れる際、そんな叫び声が聞こえて来た。
廊下で母親ベザレア・アドバンテージとすれ違う。
背の高い金髪の女性。ザ・貴婦人。その大人の美しさと、落ち着きを兼ね備えた立ち姿は、見る者全てを魅了する。
しかし、デルに対しては——
「このロクでなし! 私の前に姿を出さないでって何度言ったら! ああ、涙が出て来ますわ……私があの人に男の子を産めてさえいたら」
と泣きながら実の息子を罵倒する女性である。
「申し訳ございません。お母様」
「あなたにお母様なんて呼ばれたくないわ!」
「ご機嫌麗しゅう。私はこれで参りますから」
家主である父親は不在だったので、挨拶は不要。
デルは、そのまま部屋に戻った。
「お疲れ様でございます。おぼっちゃま」
「ありがとうございます。セバスさん。でも、こんな僕の相手なんてしてくれなくていいのに」
「いいえ。デル様が幼少の頃からお世話しております。それはこれからも変わりませぬ」
優しくしてくれる人間が老いた執事しかいないというのも寂しいものだ。
服を脱ぎながら、デルは苦笑いする。
「あ、セバスさん。いつも通り、夕食はこの部屋で食べますから」
「承知致しました」
——この家に僕の居場所なんてない。
デルは、自嘲するかのように呟いた。
◆ ◆ ◆
勉強等を終え、暇になる時間。
デルは、窓際に座りながら考えていた。
「なんで、こんなことになってしまったんだろうな」
アイリスを起動できる者——パナセルの加護を持つ者は限られている。
なぜかは分からない。でも、デルは「アイリスの心臓部はブラックボックス化されていて、解析できない」という噂を聞いたことがあった。
なんでも、パナセルの普及と共に作られたらしい。つまり、パナセル・リブート前の武器ということだ。
アイリスは、トルムのオーバーテクノロジーなのだ。
何が言いたいかというと、貴族はアイリスを起動できる者の集まりなのである。
アイリスを起動できる庶民が塔衛騎士になり、戦果を上げれば爵位を与えられる。
大抵、子孫もパナセルの加護を持つので、家系が続く。
こうしてトルムの支配体制は作られている。
「どうして、俺だけ——」
稀に産まれるパナセルの加護を持たない貴族の子ども。
家族からは憎まれても、「血を受け継いだ一人息子だから」という存在意義だけで成り立っている存在。
それが、デル・アドバンテージという男だった。
「ただの、出来損ないさ」
夜景を眺めながら、そう声に出す。
窓の向こうには、自分より立派に日々を暮らしている人間がたくさんいる。
何もできない自分が貴族として生活していることへの負い目と、何もできない自分への歯痒さ、苛立ち、寂しさ……全てが交差する。
「せめてアイリスに乗れたら、俺も——」
その時、窓の向こうにオレンジ色の発光が見えた。
「え⁉︎」
驚愕で自然と声が漏れる。
それは、全てを溶解させて消し飛ばす破壊の炎。
空を赤に染め、焼け野原になるその区画。
「あれは……」
戦火の
そこに見えたのは、アイリスと同じ、人型機動兵器——
午後のウェルトとのやり取りを思い出す。
——トルムを囲うあの雲を突破できた者はいない。
——でも、あいつらは‼︎
——言うな! アレが起きたら、今度はトルムが終わる‼︎
「間違いない。やつらだ。襲撃者が現れた……」
トルムを囲う雲、突破できない雲——それを突破してくる謎の敵。
「
実に十二年ぶりの襲来。
——このままだと、街が焼かれる。
青年は、すぐさま走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます