EP.01 結シN: B-part <TURM>
デル・アドバンテージは一人で過ごすのが好きだ。
とある事情で家には帰りたくないからだ。
それで、お気に入りの居場所が決まっている。
「なんだ? また屋上で暇つぶしか?」
「ほっといてくれ。ここで寝ていたら、なんか落ち着くんだ」
「お前も変わらんな」
茶髪の男が近づいてきた。
背はデルより少し大きいくらいの青年だ。
彼は、ボサボサのミディアムヘアをかき回して「ははは」と笑っている。
「お前もだろ。こんな俺の相手をしてくれるのは、お前だけだぞ。ウェルト……ウェルト・ストーム」
本当のことだ。デルの友人はウェルト以外いない。
他の者には「出来損ない」として見下げられているからだ。
「ま、それもそうだけどな。俺はお前がアイリスを起動できない『パナセルの加護を持たぬ者』なんて考え方はしないし。うっ、それにしても……」
「ん?」
話を変えられた。
「よくここにいられるな。この四十八メートル級構造物の上では風が強すぎるだろ」
「そんなこともないさ。逆に、嫌なことを吹き飛ばしてくれそうだ」
デルは一呼吸置いて「なんだ、そんなことか」と笑って付け加えた。
「一人でいたいけど、部屋にいても息が詰まりそうだしね。ここならそんなことない」
それに……
「このトルムを一望していると、自分のことを考えずに済む。ほら、人々が生活している光景を見ているとあっという間に時間が過ぎていくのさ」
「俺には分からんねぇ」
「分からなくて結構」
二人は笑いながら、景色へと目を移す。
そこには白……いや、薄灰色の
高さの違う円柱状の巨大構造物。それが隙間なく連なり、中心部で
四十八メートル級、というのもその構造物を構成する一つだ。
これこそがトルム。デルたちが生活する巨大都市である。
「なあ、俺たちはいつまでここにいるんだろうな」
そうウェルトが呟く。
「さあ……。でも、約五百年前に起こったパナセルの大暴走は災害となり、世界を滅ぼすほどの影響を及ぼした。それは授業で習うことだ」
「そう。パナセル・リブートだ」
ウォルトは、テストの回答を確認するかのようにその災害の名を唱えた。
デルはさらに発言を続ける。
「パナセルは人体を蝕む。有害化したパナセルで人類が滅びゆく中、この地の人々を守るために作られた都市——それがトルムだろ?」
「ああ」
トルムのテクノロジーを支える万能粒子パナセル。
アイリスもそれをエネルギー源をしている。
だが、時としてパナセルは毒となり、人を殺す。
そう言えるのは、実際にパナセルは世界を滅ぼしたからだ。
五百年前に起こったパナセルの大量
それこそがパナセル・リブートと呼ばれる悪夢だ。
その害から逃れるために作られたのがトルムなのである。
——外界は、危険である。
そう教えらているから、トルムに生まれた者は一生トルムで暮らす。そう決まっている。
「有害化したパナセルの半減期は不明。だから、今でも外がどうなっているか分からない。危険性は拭いきれないんだ。分かっているだろ?」
「そうだけど……」
「それに、何度もトルムから出る実験は行われた。でも、トルムを囲うあの雲を突破できた者はいない!」
「でも、あいつらは‼︎」
「言うな! アレがまた起きたら、今度はトルムが終わる‼︎」
その言葉で、ハッとしたようにウェルトが引き下がった。
「すまねえ」
「ああ、いや」
その言葉で会話は途切れる。
——まあ、俺もトルムにいるのは嫌だけどな。
その呟きは、ウェルトには気づかれなかった。
見渡す限りの
薄灰色の絨毯の向こうには、白い巨大雲という壁紙が貼られていた。
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