トルムアスタ 転成のデル
TAMA-CHAN
1st SEASON
EP.01 結シN
EP.01 結シN: A-part <モ戯sin>
模擬戦だから「手を抜いていい」なんて誰が言った?
廃墟を模したステージに二つの翼が舞う。
青年は、敵に
その様子はまるで
そして、正面に一筋の光が輝く。
蒼き光線は、自分を
——やらせるかよ。
金髪の青年は、舌打ちしながら乗機を宙に浮かせた。
自分が相手に丸裸なら、正面から立ち向かえば良い。そう思ったのだ。
「上から見つけてやる!」
絶え間なく続く光線の襲撃は、一線、一線、またもう一線と続く。
右へ左へ、上へ下へ。
斜め右上へ、斜め左上へ。
斜め右下へ、斜め左下へ。
前へ後ろへ。
空中飛行は広範囲の空間を移動をできる。その利点を生かして、考え得る全ての挙動を組み合わせる。
押されたり押し返したり、その繰り返しだ。
<おっとぉ〜、デル・アドバンテージ、見事な回避行動です! 粒子をなるべく使わない……高得点を獲得できる動き、良い判断ですぞぉ‼︎>
アナウンスに「デル」と呼ばれた青年——デル・アドバンテージは呼吸を乱す。
「通信、切っておけば良かった」
憶測でものを言い、それを
まるで週刊誌のように痛いところを突いてくる。大抵、それは他人——観客の笑いの
彼らはいつも余計なのだ、と。
——うるせえな。
口を歪ませ、操縦桿を前に押し出した。
「俺だって、できるんだよ! 見ていろ‼︎」
急発進して敵機に接近する。
そして、手に持っていたアサルトビームライフルを構えて撃つ。
「どこだ、どこにいる⁉︎」
敵機は建物の陰に隠れている。数分前のデル機と同じだ。
それを
先ほど敵にやられたことをやり返す。
幸いなことに、粒子残量はまだ多い。
溶けていく建物の壁面から、黒い影が見えた。
「そこかあ‼︎」
そこに集中して連射する。
飛び出してくる黒い機体。自分が乗るのと同じ機体。独特な鋭利なラインが特徴の人型機動兵器アイリス。
その最新量産機「ジーニア」のブラックカラーモデルだ。
——アレを倒す。
言い聞かせるように呟いて——
ライフルを投げ捨てて、サイドスカートから剣を取り出す。
それを構えて、急発進・急降下しながら斬りかかる。
しかし、そこに通信が入った。
相手、目の前の敵機からだ。
『おい、出来損ない。なに調子乗ってんだ? ええ‼︎』
その言葉は、デルの苛立ちを強めた。
「ジェームズ。負けそうな奴が何を言っているのやら。笑えるな」
相手のすぐ頭上まで近づいた好機を逃さず、剣を振り下ろす。
「さっさと……死ねよォ‼︎」
『ハッ、そんな攻撃でやられるとでもぉ?』
ジェームズ機の急後退により、攻撃は失敗。
——ちっ。
勢いで再び地に足を付けたデル機は、すぐに体勢を正す。
そして、ジェームズ機めがけて突進。
剣と剣のぶつかり合いが始まった。
それは、駆け引きの開始でもある。
『模擬戦ならアイリスを動かせるってか⁉︎ 実機ではないからと‼︎』
「黙れ! 貴様はいつもいつも、俺を愚弄しやがって‼︎」
『だって本当のことだろう? 俺はお前に現実を教えてやってんだ!』
「現実ねぇ……なら、今押されてるのも現実。俺は……貴様より強い‼︎」
『ふざけるな、パナセルの加護を持たない出来損ないに負けるなどぉ‼︎』
一瞬の沈黙——
「出来損ない……ね」
ジェームズの言葉は、デルの抑えていた怒りを爆発させるに十分だった。
「うるせえんだよ」
ジェームズが剣を上げた瞬間に、どうしても生まれる隙。
そこを狙って、デル機は急前進。
機体を体当たりさせる。
目先の塊が吹き飛ばされたところで、更に機体を前進。
塊——ジェームズ機は機体の立て直しに手間取っているので反抗できない。
デルは一瞬たりとも躊躇せず、それの腹部に剣を刺し通す。
「言っただろ。俺は、お前より強い」
<勝者、デル・アドバンテージ‼︎ 信じられません。実機を起動できない彼が、シミュレーターを使った模擬戦で勝ちましたあ‼︎>
対戦が終わって、アナウンスが続いていることに気がついた。
「シミュレーター、ね……」
声に出しながら、苦笑いする。
デル・アドバンテージはアイリスを起動できない。
つまり、実機を動かせない。
それゆえ、「出来損ない」と呼ばれるのだ。
ジェームズの言葉がデルの脳内で
同時に、今日まで笑われ、見下され、罵倒されてきた記憶も脳裏をよぎった。
——出来損ないに負けるなどぉ‼︎
——出来損ないに負けるなどぉ
——出来損ないに負けるなど
——出来損ないに負ける
——出来損ない
——出来損ないなんて
——出来損ない!
——この役立たず‼︎
「クソ野郎‼︎」
シミュレーターの操縦桿を叩く。
全てが腹立たしい。憎たらしい。
何も出来ない自分も、自分を罵倒する奴らも、嘲笑する奴らも、全てが。
顔を覆う指の隙間からは、灰色の画面が
全てが真っ暗。
青年は、それを睨みつけた。
——出来損ないは、もう嫌だ。
それが、青年の切なる思いだった。
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