第29話

3月も下旬になると、昼間は雪解けが進む。


しぶきを上げながら車が行き交う。


まだ春という言葉は似つかわしくないが、少しづつ、少しづつ、確かな足取りで冬がフェードアウトしていく。


あれから賀代の噂をたびたび聞いた。


妊娠していたとか、故郷に帰ったとか、いろんな話が聞こえてきたが、どれが本当でどれが嘘なのか確かめる術は今はない。


確かめる事ができたとしても、どうしようもないことだ。


雪が突然なくなって春が来ることがないように、僕の心から賀代が突然消える事はないだろう。


少しづつ、少しづつ、雪がとけるように、賀代の記憶は僕から消えていくのだろう。



こうして僕の、僕らの冬は終わった。

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