第27話

こういう時、硬派な男なら

「知らねえよ」

とか言うのだろうが、僕は軟弱な男だ。


すぐに賀代に電話をした。


「あ、賀代ちゃん?久しぶりだね。」


「久しぶりやね、シン君…」


「それで、温泉の事だけど、今度の週末でいいかな?」


「うん、週末な。家まで迎えに来てな。」



週末。

僕は中山峠を越え、賀代の住む町へと向かった。

正直、心弾むような感覚はなかった。

賀代が何を考えているのかよくわからなかったから。


賀代の家の前に着き、軽くクラクションを鳴らすと、家の扉が開き賀代が現れた。


「クルマ、変わったんやね。」


「ああ、いろいろあってね、ランドローバーは売ってしまったんだよ。今は軽自動車。」


「ウチは前のクルマよりもこっちのほうがええなあ。」


とりとめのない会話でつないでいく。

たけしの事については、賀代が言うまではこっちからは何も言うまい。


賀代の家からそう遠くない温泉へ。


観光客が絶対来ないような地味めな温泉だった。


「シン君、ゆっくり入ってな。」



僕は温泉に浸かりながら、賀代の不可解な行動の理由ばかり考えていた。


湯から上がると、賀代のほうが一足早く出ていた。


「今回はシン君の方が遅かったな。」


洗い髪が艷やかに色香を放っていた。

賀代がそんな風に見えたのは初めてかもしれない。


心乱れぬよう、気を取り直す。


「せっかくだから、なんか食べに行こうか?」


「今日は外食やなくて、ウチが手料理作ってあげる。」


促されるまま賀代の家に向かった。

気を取り直せないままに。

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