第26話
宗谷岬での時間は夢のように過ぎた。
札幌。
年が明けても僕は相変わらずやる気なく仕事をしていた。
ある日、社長から呼び出しがかかった。
「大友君、仕事が終わったら社長室に来なさい。」
遂に解雇か。
仕方がないと言えば仕方がない。
終業後、社長室へ。
「大友君、まあ座れ。」
僕は少しくたびれたソファーに腰掛けた。
「なあ、大友君よ、毎日毎日怒られてばかりで嫌にならないかい?」
「はあ、そうですね…」
「こっちも大友君を怒るために雇ったわけじゃないんだ。実はあの時、3人ばかり面接に来た。そして採用したのは大友君だ。」
「はい。」
「なぜだかわかるか?大友君はうちでやっていける人材だと考えたからだ。」
「…はい。」
「うちの会社はもしかすると大友君にとってあまりいい会社じゃないかもしれない。だから一生うちで働けとは言わない。だけどな、うちにいる間は精一杯働いてみたらいいんじゃないか?そのほうが、大友君がうちを辞めて次の会社に行くことになったとき、プラスになると思うど。」
「はい、わかりました。」
僕は一礼して社長室をあとにした。
半端者の僕には、仕事に生きる人間の言葉を理解するのは簡単ではなかった。
それなのに、なぜか少しぐらい真面目にやってみようかという気にはなった。
しばらくの間、仕事に前向きに取り組んでみた。
その甲斐あってか、雪まつりが終わる頃には、数社を任せてもらえるようになっていた。
ドヤされることもなくなった。
仕事を終え、家に帰ると留守番電話のランプが点滅していた。
「あ、ヤバい!白川さんの事をすっかり忘れていたぜ…」
留守番電話を再生した。
「…シン君元気?賀代です。温泉に連れて行ってくれへん?」
電話は賀代からだった。
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